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フットボールネーションと運動科学とゆる体操と(その1)
フットボールネーションが再開しました!
理論派サッカー漫画としてたくさんのプロ選手にも影響を与えてきたと言われている「フットボールネーション」ですが、以前も当サイトのブログ「意外にフットボールネーションの理論がゆるプラクティスだって事が知られていないのを何とかしたいと思っている46歳のオレ」(今は47歳です!)でもご紹介させていただきました。
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フットボールネーションの特に「体の使い方」についての理論・記述は主に運動科学総合研究所所長である高岡英夫先生が創始した「運動科学」の理論に基づいて書かれています。
そして当サイトでもメインで取り扱っている「ゆる体操」「ゆるトレ」は「運動科学」の理論を元にしてできている体操です。
そこで今回はフットボールネーション再開を勝手に記念(?!)して各巻で紹介された運動科学の理論とそれが詳しく書かれている高岡先生の著作、そしてそれに対応するゆる体操やゆるトレをご紹介したいと思います。
1巻のテーマ「もも裏と腸腰筋」
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1巻のテーマでもある「もも裏と腸腰筋」は当サイトでも何度もご紹介してきた、全ての身体運動の基本となる最重要のファクターと言えます。
「脚がきれいな選手求む!」で始まる1巻ですが、
「脚がきれい」=「もも裏・腸腰筋が使えている」
ということが1巻を通してまるで謎解きのように明らかになっていきます。
そして巻中で何度も言及されているように歩く・走るといったいわゆる「移動運動」は大腿骨を後ろに振ることで成り立つものですから、まずはもも裏の筋肉を股関節周りで収縮(解剖学的な視点で見ると股関節の「伸展」運動)させることが重要になってきます。
しかしスポーツ選手に限らず、人間は年齢がかさんで体が衰えてくると、さまざまな理由で「もも裏」から「もも前」の意識が強くなり、移動運動(歩く・走る)の効率が悪くなってしまいます。
私は整形外科でリハビリをしていますが、(大変失礼ながら)ご高齢の方の腰や下半身のリハビリを担当させていただくときに
「最近脚が全然前に出なくって・・・」
とおっしゃられる方によく出会います。
しかし、歩くときに「足を前に出す」という感覚はもも前の筋肉の作用(解剖学的な視点で見ると大腿四頭筋による股関節の「屈曲」運動になります)であり歩行運動でいうと実はメインの運動ではありません。ですから「脚が前に出ない」という感覚そのものがすでに歩行運動の感覚としては間違っていて、「最近足を強く後ろに振れなくなった」というならわかります。
でも歩くというと若い方でもほとんどの方が「脚を前に出す」という感覚で、「脚を後ろに振る」という感覚で日常的に歩いている人は少ないと思います。
これを冷静に分析してみると、現代人はすでに若い頃からもも裏が使えなくなっているということになります。
このようにもも裏が使えなくなることはスポーツのパフォーマンスの問題だけでなく、老化における移動運動の低下とも深い関係があるのです。
ですから一般の方でもできるだけ早くもも裏の使い方を学習しておく必要があります。
ましてやスポーツ選手ならただ使うだけでなく、より効率よく移動できるように正しくもも裏を収縮させることができるように訓練する必要があるのです。
そして単にもも裏を使えるというだけでなく、「効率よく」もも裏が使えるためには顕在的に意識するだけでなく、意識しなくても勝手に使えてしまうような強力な潜在意識がもも裏に作られる必要があります。
潜在意識でないといけない理由は簡単です。スポーツなど素早い動きが必要とされる場合はいちいち(顕在的に)意識していては間に合わないからです。また、スポーツに限らず全ての芸事でもその種目の具体的な技術を使いながら、このような基本的な運動をいちいち意識していてはいろいろと不便があります。
ですから(顕在的に)何も考えなくてもできるように潜在意識化していく必要があります。
運動科学ではこのもも裏を効率よく使わせる潜在意識を裏転子と言い、運動科学ではそれがある人を「裏転子がある」、「裏転子が形成されている」という言い方をします。
そしてよりもも裏を正確に強く(筋力が強いという意味ではなく)使える人を「裏転子が強い」と言います。
先ほどのリハビリの患者さんの例でいうと、歩行運動を「脚を前に出す」と表現する時点で、すでに「裏転子がない」または「裏転子が弱い」ということになりますね。
そして、もも裏を使えている人はその拮抗筋としては腸腰筋を使う傾向がありますから、大腿骨を前に振り戻す動きをするときにはもも前の筋肉である大腿四頭筋より、お腹の奥にある腸腰筋を使うようになります。
ここで注意したいのは股関節の屈曲をする時に腸腰筋をメインに使うと、「脚を前に出す」という感覚よりも「脚が自然に前に振り戻される」という感覚になることです。
しかし、自然に腸腰筋が使えるためにはもも裏をある程度使えているだけでは不十分で、はっきり裏転子が形成されているぐらいになるとより正確に腸腰筋主体の動きになりますが、現実的にはゆる体操で腸腰筋の意識を鍛えるトレーニングをしたほうがよりお互いにとって良い影響があります。
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もも裏、裏転子に関する高岡先生の書籍をご紹介するなら、入門編としては「日本人が世界一になるためのサッカーゆるトレーニング55」(KADOKAWA)が良いと思います。
またトレーナーの方のようにもう少し詳しい理論を知りたいという方は「丹田・肚・スタマック」(ベースボールマガジン社)に当たって見られるのが良いと思います。
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さて、ここからは実際にフットボールネーションのシーンを見ていきましょう。
画像を直接載せられるといいのですが、版権の問題上それはできませんので何ページのどのコマという形でご紹介させていただきます。
フットボールネーションのシーンを(独断と偏見で)分析!
もも裏 79P
やはりわかりやすいのはP79の解説シーンですね。モデル(?)は主人公のライバル一ノ瀬ですが、このようにもも裏が使えている人は走った時背筋が伸びて大きなストライドになるという傾向があります(あまりそうならないような特殊な使い方もあります)。
また、もも裏と言っても股関節を進展(大腿骨を後ろに振る)させるように収縮させなければいけないので、意識するポイントはお尻の付け根ぐらいになります。ですので、ちょうどその辺りに3本の線で印が入っていますね。
P184で東クルの監督がレッグカールがダメと言っている理由はここにあるのです。
レッグカールが決定的にダメな理由は裏転子が身につかない事です。レッグカールは膝の屈曲運動なのでどちらかというと筋肉を収縮させる意識は膝関節のすぐ上ぐらいに出来てしまい、股関節を進展させる筋力にはつながりません。それより移動運動ではむしろ害になることが多く注意が必要です。
腸腰筋 172P
場面としては
「サッカー選手として致命的な欠陥があるから」
というところなのですが、明らかにキメのカットとして書かれていますね。できるだけカッコいい主人公を見せておいて、それでも欠陥があると指摘することで読者の興味を惹く狙いがあるのだと思います。
そういう意味で漫画のワンシーンとして見ても良いカットだと僕は思います。
さてこのシーンで主人公の沖の体幹の右側から右脚に注目しましょう。「足」でなく「脚」です。
ちょうど ユニフォームの6という数字のあたりから体の右半分がズルっと落ちているような、一般的に見て変なポジションになっていますね。
一般的に身体能力の衰えた現代ではよほど格別の知識がないとこういう絵は描けないほど特別な体の使い方が描かれています。
上げている方の脚が胴体ごと下垂している(下に垂れている)、これは典型的に腸腰筋(のうちの特に大腰筋)が使えているときの脚の見え方で、運動科学では「大腰筋吊脚下垂」といいます。高岡先生の著作では「究極の身体」に詳しく書かれているので参考にしてみてください。
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1巻では特に「フォトジェニック」という言葉がキーワードになっていますが、作者の大武ユキさんは少なくとも連載初期の頃はこのシーンのように腸腰筋に特徴的な動きのうちでもこの腰が割れて垂れる部分に「フォトジェニック」さを感じていたのではないかと私は思っています。
1巻の表紙もこの系統の動きのショットになっていますよね。
私は表紙よりもこのシーンのほうが好きなのですが、その理由は優秀な身体を持っている人の特徴が複数わかりやすく描かれているからです。
他を少し説明すると軸足の接地ですね。この状態でもビタッと地面を捉えています。 その分加速が効きますから、これができる人とできない人はこの後のスピードが違うんですね。
あとは肩包面と言われる上半身の意識でしょうか。もちろん2巻以降で詳しく解説がある(軸=センター)も良いですね。
改めて思うんですけど、このような高度な身体使いを主人公の問題点を指摘する場面に使ってくるというのが、サッカーファンとしての僕にとって、大武さんの「サッカー愛」が感じられるシーンなのです。
僕は作者の大武ユキさんのtwitterをフォローしてますが、常にサッカー観戦をしている方なので、本当にサッカーがすきなんだなーとよく思います。
僕も昔はすべてのJリーグの放送を見ていましたし、海外の放送も常に見ていましたが、最近は忙しくてなかなか見る機会がないのが現状です・・・。
なぜこのシーンにサッカー愛を感じるのかという理由は、これまでのサッカー漫画の歴史や、フットボールネーションのサッカー漫画としての位置付けにまで関わってくるので、このサイトの方針とズレてきますし、ここで書こうとすると結構なボリュームになってしまいそうなので今は伏せておきます。
ま、あくまで僕個人の感想として受け取っていただければ良いと思っています。
しかし、実はゆる体操指導員としての僕が感じた1巻のベストショットは別にあります。それは後ほど・・・。
さて、もも裏や腸腰筋をどうやって使えるようにするかということになるんですけど、もも裏(裏転子)を意識することはボールを持っているときでもわりとできますが、腸腰筋が使えている時の状態を自分でプレー中に意識すると腰を痛めたりして危険です。
また、もも裏にしても常に使うように顕在的に意識するのは当然としても、やはりちゃんとしたやり方で、基礎トレーニングとして取り入れた方が良いです。
そして最初はあまり専門的な高度なやり方よりも、特に忙しい選手の方はゆる体操を取り入れたほうがコスパが高いと思いますので皆さんやってみてくださいね。
では次に1巻の内容に対応したゆる体操をご紹介します!
もも裏と腸腰筋を鍛えるゆる体操
このサイトでも何度も申し上げていますが、ゆる体操は楽に高度なパフォーマンスが身につく体操ですので、やっていればいつの間にかできなかったことができるようになったり、運動の負荷が減って疲労が溜まりにくくなったりということが当たり前に起こるのです。
以下にもも裏や腸腰筋が使えるようになる簡単なゆる体操をご紹介しておきます。
(演者はゆる体操の正式な指導員資格を発行している「日本ゆる協会」の公認指導員で最上位資格である「日本ゆる協会公認全日本ゆる体操デモンストレーター」の中田ひろこです)
もも裏が使えるようになるゆる体操
このうち、ウッススリスリ体操(実用名称「ハムスリ」)はフットボールネーション2巻の179Pでカメラマンの緒方さんが全く同じ動きを紹介しています。
どの体操も基本的にもも裏の意識を高める効果があるので、普段歩いている時でも、もも裏を使えるようにする効果があります。
先ほども述べましたが、結局のところもも裏は普段から無意識で使えていないとサッカーの試合中に使うことなど現実的には不可能です。ですから歩いているときに使えないと意味がないのです。
フットボールネーション2巻では「軸」ともも裏を絡めて歩き方についても触れていて、2巻173Pで
「正しく歩けない限り、サッカーでも100%のパフォーマンスを発揮するのは無理だ」
とはっきり明言していますね。
腸腰筋を使えるようになるゆる体操
「フットボールネーション」では
「ハムストリングスを使えれば拮抗筋である腸腰筋も使えるようになる」
という旨のことが2巻No.16を通じて語られていますが、もちろんゆる体操・ゆるトレでは腸腰筋が使えるようになるゆる体操もあります。
ただし、よほど腰が固まっている方がいきなり高度なトレーニングに取り組むと、効果がないか腰を痛めてしまう恐れがあります。
ですから最初は「寝ゆる黄金の3点セット」をよくやって、「チャップリン」へと進んでいただくと良いのではないでしょうか。
さらにたくさんのゆる体操について知りたいという方は、ゆるポータル神戸のYouTubeチャンネルをご覧になってください!
ゆるポータル神戸YouTubeチャンネル
最後に私が(マニアックに)選んだ1巻のベストショットをご紹介しておきます!
中田了平がマニアックに選ぶ1巻ベストショット!
それは169Pの沖、鳥海、そして相手チーム(かわいそうに顔が吹き出しで隠れている扱い・・・)の3人が一つの枠に入っているショットです。
相手チームの選手の顔が隠れているのに、太ももの前側ははっきりと描かれていて、ちょっと悲惨なのですが、これは「 雑魚キャラの顔などはどうでも良い」という大武さんの主張ですね(笑)
ここで東クルのエース二人との違いを鮮明に出しているのです。
そしてもう一つは沖と鳥海の違いですね。
二人とももちろんもも裏派で体使いも柔らかく、特に鳥海の服のシワの書き方などは柔らかい体使いができている人の特徴なんですね。
しかし二人の遊脚(運動科学では地面から離れているほうの脚を「遊脚」と言います)には差があります。
沖の方がより低いところから上がっているような感じがしませんか?
沖のほうがより大腰筋吊脚下垂が出来ているように書かれているように思われます。
もしかしたら僕の考えすぎかもしれませんが、2巻で(ここで描かれている二人ではありませんが)明らかに「もも裏は使えているけども腸腰筋の使い方はそれほどでもない」事を意識しているショットがあるので、おそらくそこまで意識して描かれているのだと思っています。
さて紙面?の都合上今回はここまでにしたいと思います。
最初は1回で数冊分を紹介しようと思っていたのですが、1巻しかご紹介できませんでした・・・。
次回は2巻以降を同じテーマでの切り口でご紹介したいと思っていますが、この調子だと15回シリーズになるのでしょうか(笑)
(不定期連載?になる予定ですが)次回もよろしくお願いします!
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中田ひろこ@ゆる体操
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