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ピカソとセザンヌと

こんにちは。突然ですが私は絵画鑑賞が若い頃からの趣味です。
今でも興味のある展覧会は可能であればなるべく出かけるようにしています。
私は絵画に対して好き嫌いがそれほどあるわけではないので、いろんな画家に興味がありますが、その中でもピカソは好きな画家の一人です。

ちなみに好きな画家を5人あげろと言われると、

  • レオナルド・ダ・ヴィンチ
  • ピカソ
  • レオナール・フジタ(藤田嗣治)
  • 葛飾北斎
  • 伊藤若冲

の5人です。気分でこの中の数人は別の人と変わる場合があります(笑)(ミケランジェロも好きですが、私は彼のことを「彫刻家」と思っているので外します)

今日はそのピカソについて以前

「なるほどなぁ・・・」

と思ったことがあったので、少しお話しさせてください。

画家の身体意識

ピカソといえば、運動科学者の高岡英夫先生身体意識の視点からの分析結果を公表している数少ないアーティストの一人ですね。葛飾北斎やミケランジェロもその数少ないアーティストの一人ですが、別にだから好きというわけではなく、私は子供の頃は毎日絵(らくがき)を描いていたので、デッサンがしっかりしていて、素描が上手い画家が子供の頃から基本的に好きなのです。
アーティストの身体意識というと運動の面からゆる体操を知った方々にとっては少し面くらうかもしれませんが、アーティストといえど人間には変わりありませんので、当然身体意識が存在し、スポーツ選手の身体意識がその選手の動きやプレースタイルに影響を与えているように、当然アーティストの身体意識もその個人の作風や技術に影響を与えています。

「天才の証明」
ピカソやミケランジェロの身体意識図が掲載されている

※リンクを押すとアマゾンの該当ページに移動します

印象派からキュビスムの時代の2人

さて、今回のブログの題名になっている画家のひとり、セザンヌですが、私は若い頃は印象派の画家が好きで、日本では印象派の画家たちは人気が高いこともあって展覧会で見る機会がよくありました。印象派の画家でもセザンヌは私の好きな画家だったので機会があればよく観ていました。

セザンヌも時期によって特徴の違いが見られますが、静物画にしても風景画にしても対象を「面で捉える」傾向があると言われています。
その頃は知らなかったのですが、セザンヌはピカソやジョルジュ・ブラックなど後のキュビスムの画家たちに影響を与えたことで知られています。キュビスムは日本語では「立体派」(「立方体派」とも)と言われていますが、キュビズムに属すると言われる画家たちは一枚の画面に他方向からの視点を描いたことで知られていますね。
セザンヌの特に後期の作品を見ると、立体を面や線で切り取って、しかも複数の異なった視点から捉えた見え方を一枚の絵の中におさめて(セザンヌ本人は「全知全能にして永遠の父なる神が私たちの眼前に繰り広げる光景の一断面」と言っていたそうです)います。ある種、西洋絵画でルネッサンス以来発展してきた絵画における透視図法へのアンチテーゼと言えるかもしれません。
そしてそれがピカソをはじめとしたキュビスムの画家たちに間接的・直接的に影響を与えたということです。

セザンヌの絵
セザンヌ「りんごと梨のある静物」 THE MET CC0 DP-14936-049

そういう絵画史上の知識がなくても、実際に複数のセザンヌの作品を見るとそれは一目瞭然で、このレベルになると、おそらくなんらかの身体意識レベルの作用があったのかと思わせるほど、対象を多方向から捉える要素が強いことがわかりますね。

そしてもう一人のピカソといえば一生を通じてスタイルを頻繁に変えたことで知られていますが、「青の時代」や「キュビスム」の頃の作品が特に評価が高く、また多作でも知られていて、素描などから見られるそのデッサン力は歴史上の画家の中でもずば抜けて高い人だったと私は思っています。

もう描いた線全てが作品になってしまうレベルですね。
このレベルに到達した画家はそれほどはいないと思います。
(ピカソの作品はパブリックドメインではありませんが、何とかフリー素材を見つけることができましたので、作品をあげておきます。)

ピカソ『眠っている女の頭部』
ピカソ『眠っている女の頭部』
Pixabayからmanolofranco氏のフリー画像を転載

これについては色々異論もあるでしょうけど、少なくとも私はピカソをそういう風に捉えていると思っていただけたらと思います。

世間の評価

以前から思っていたのですが、セザンヌとピカソは専門家の間ではどちらが上とか下とかいうことができないほど、歴史に残る画家として評価されています。近年セザンヌの作品は市場価格も高騰し、絵画の最高取引額はセザンヌの作品という説もあります(最もこのクラスになると単純に価格がその価値を決めるという訳ではありませんが・・・)。
しかし、この二人はかたやキュビスムの画家たちにインスピレーションを与え、かたやキュビスムの創始者と言われるほど内面的に関係が深いといっても良いのに、一般の知名度はピカソの方がはるかに高いと言っていいでしょう。

特別絵画が好きでない人にセザンヌと言っても
「名前は聞いたことあるけど、どんな絵だっけ?」
となると思いますが、ピカソといえば
「ああ、知ってる。あれですね」
となりますね。

当然ピカソの絵画はその「一見理解不能」であることが強烈なインパクトを与えるのでセザンヌより記憶に残りやすいということはあるのですが・・・。

さて、このように微妙に世間での評価に差がある二人ですが、私にとって両方とも好きな画家なだけに

この二人のこの違いはなんなんだろう・・・。

と私は以前から「ぼんやりした疑問」を感じていたのです。
そして、あるとき自分なりにそれが解決できた「事件」が起こったのでした。
それは二人の作品を同時に生で見ることができる機会に恵まれたのです。
展覧会の名前は忘れてしまいましたが、たしか兵庫県立美術館で数年前にやっていた展覧会です。
いわゆる「ベル・エポック」と言われた時代の作品展で印象派をはじめ、たくさんの画家の作品が同時に展示されていたと記憶しています。その時にセザンヌのコーナーがあって、やはり私はセザンヌも好きなものですから、30〜40分ほど絵を眺めていたのでした。
そして、
「やっぱり本物はええもんやな〜」
とか思いながら、彼の表現を改めて味わったのでした。

そして次の部屋に行った途端、ものすごい衝撃を受けたのです。これは大袈裟ではなくまさに「衝撃」でした。

次の部屋には(作品名も忘れてしまいましたが)ピカソの(おそらく1×1.5メートルぐらいの)絵が飾られてたのですが、何が衝撃的だったかというと作品を貫くその軸(=センター)です。もう、猛烈にセンターが強いんですね。その時の感覚を表現すれば「ちょっとありえないぐらい」です。
絵としては複数の図形のようなものが重なっているような絵だったと記憶していますが、とにかくセンターが強い。
その時長年の「ぼんやりした疑問」が一気に解決したのでした。

少し説明させてください。

鍵は軸(=センター)

軸(=センター)はゆる体操の元になっている「運動科学」の理論では、生物の体の重力線に対して縦方向に走る意識のラインです。
どんなものにも物理的に存在する重力線が意識化された状態なので、重力のコントロールが効率化され、さらにそれによりおよそ全ての運動が効率化され、いわゆる
「無駄のない合理的な、本格的な動き」
が可能になります。

しかし身体の動きは脳によってコントロールされています。そのことを考えると軸のある人は動きだけでなく思考や判断力もそのようになるわけですから、軸(=センター)のある画家の筆から生み出される作品も結局のところ、合理的で本格的なものになります。

これについては運動科学の創始者である高岡英夫先生の著書「センター・体軸・正中線」をご覧になられたら良いと思います。

センター・体軸・正中線―自分の中の天才を呼びさます

※リンクを押すとアマゾンの該当ページに移動します

ピカソは様々な作品を見てもわかるように対象をバラバラの視点で捉え、それを二次元に再構成した人ともいえます。
「キュビスム」の語源である「cube」というのは立体・立方体という意味ですから、多方向の視点で対象をバラバラに切り取るという意味ではピカソの絵画は「キュビスム」という言葉では表現しきれないものがあります。
冒頭で、ピカソと葛飾北斎、ミケランジェロは高岡先生が身体意識の分析をされていると申し上げましたが、この「バラバラ」の視点という点では高岡先生が武術専門誌の月刊「秘伝」(BABジャパン)で2010年4月から連載していた「高岡英夫師の”人類遺産”」のミケランジェロの回(2010年12月~2011年1月掲載)の中で、ピカソとミケランジェロの身体意識の比較から非常に興味深い(おそらくこんな視点から芸術家を論じた文章はどの絵画評論にもない)考察があります。

その後この連載は「身体意識から観る人間学」(BABジャパン)という題名で出版されましたが、残念ながらミケランジェロの章は割愛されています。

「身体意識」から観る天才学

※リンクを押すとアマゾンの該当ページに移動します

結局のところ、外界をバラバラの視点で捉えて再構成したとしても、その結果もバラバラなままでは作品として成り立たないわけです。

子供が何かを無茶苦茶に壊して、また集め直して大人に
「すごいやろ〜」
と得意満面で言っているようなものですね(いや、それもある意味確かにすごいのですが、ここでこの凄さを語るには紙面が足りません(笑))。

では、ピカソの作品は何が違うのかというとバランスが素晴らしい。先ほどの展覧会で私が直接見た作品に関して言うと、各図形(おそらく何らかのモチーフを簡略、解体化したものと思われます)の配置や画面の中での構成が素晴らしいのです。
その再構成されたものがなぜ作品として成り立っているのかというと、ピカソの軸(=センター)が凄まじいからです。

一見無茶苦茶に見えても、ではそれをピカソ以外の他人がやろうとしても絶対に不可能なレベルで再構成してしまうわけですね。
これは自分がやってみたら・・・、という風に考えると分かりやすいです。
簡単にいうとある作品が目の前にあって、そのコンセプトが分からず、作家が一見何をしようとしているかわからなかったとします。
そして評論家やその作家自身にその作品のコンセプトなどを聞いてある程度自分で理解できたとします。しかし同じコンセプトで自分が何か作品を作ろうと思っても絶対にそのレベルではできない、ということになるのです。
それは技術の差もあるかもしれませんが、それ以上に身体意識の差であることが大きいです。
メッシがすごいことは皆がわかっていて、それに憧れて彼と同じようにしたいと思っても決して彼のようにはできないのと同じといえます。
結局のところ何がセザンヌと違ったのか。それは同じ天才同士でも

ピカソの方がセンターが強い

ということです。
再度言いますが、私はセザンヌが好きなのです。ですから展覧会でのセザンヌの部屋では何十分もそこにいたのです。
ただ、ピカソと比べると何が違うのか、何が世間での根本的な評価の差になっているのかというと、結局のところ、ピカソの方がセンターが圧倒的に強いということだと思ったわけです。

そして、高岡先生が発表しているピカソの身体意識図を見てみるとまさにそのようになっているわけですね。
すでに公表されているピカソの身体意識図の解説で高岡先生は
「ピカソのセンターは極め付きに強い」
と述べています。
ただし、高岡先生の身体意識図は主に図形の形で表現されますが、身体意識というだけあって、ある程度自分の体を通じて見ないとただの図形にしか見えません。

私は初めてピカソの身体意識図を見た時、わからないながらも不思議に納得した記憶(とは言っても「へぇ〜なるほど・・・」という程度です)があるのですが、そういう意味で言うと実際に見ることができたピカソの作品と他の画家の作品との比較を通じて、ピカソの軸(=センター)の強さを自分なりに実感できたということなのでしょう。

体を垂直方向に貫く軸(=センター)は人間を人間たらしめている根本装置と言えるものです。
ですから、センターが強い人や作品は非常に本格的な風格を持つようになります。
ですから、人間にしても、作品にしてもセンターが強いと、その「本格的さ」故に無意識・潜在意識のレベルで他人を圧倒したり、納得させたりする作用が根本的なレベルで生じるのです。

結局のところ、私が感じていたピカソとセザンヌの違いに対する「ぼんやりした疑問」は軸(センター)の強さということだったと言えると思います。そしてそれが結局のところ世間での評価にもなっているということなのでしょう。

ピカソをそういうふうに捉えると、結局デッサン力の凄さ、描いた線が全て作品になってしまうという点も軸(=センター)の強さに支えられているものなのだということがわかるようになりました。

軸がしっかりしているのでどんな曲線も自在に描けるということなのですね。

ゆる体操で豊かな人生を

今回は身体意識の観点から私がピカソとセザンヌに感じたことをお話ししました。
私は高岡先生のように身体意識が図形としてはっきりわかる訳ではありません。私がこのコラムで言っていることは高岡先生の情報を参考にしながら、それが自分で部分的に実感できたという話にすぎません。
しかし身体意識は誰にでもある潜在的な意識の構造ですから、仮に運動科学の知識がなくとも誰でもこういうことを潜在的に感じているのだと私は思っています。

もちろん自分の軸(=センター)がより強くなると、絵画に限らず対象を洞察する能力も上がりますから、ゆる体操・ゆるトレをすればするほどより深い世界がわかるようになります。
これは重要ですが、基本的なゆる体操・ゆるトレの効果なのです。
いろいろなものをより深いところまで認識できるようになると、不確かな情報にも惑わされなくなりますし、その分迷いもなくなりますね。
私はこれこそが豊かな人生だと思うのですがいかがでしょうか。
日頃ゆる体操、ゆるトレを楽しんでいる皆さんの中にも絵画や書にご興味のある方も多いでしょうから、このように作品を見てみるときっと楽しいと思いますよ。

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