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「呼吸意識」と指揮者の話

先日このサイトで高岡先生の書籍『呼吸五輪書』(BABジャパン)のレビューを書きました。

高岡英夫の「総合呼吸法」 呼吸五輪書: 呼吸の達人を目指せ!

※リンクを押すとアマゾンの該当ページに移動します

その時に少しだけ、私が高校時代に所属していた部活のオーケストラが指揮者の朝比奈隆さんに指揮をしていただく機会を持った時の話をしました。

今日はその時の経験を中心に指揮者の呼吸と意識の関係の話をしたいと思います。

朝比奈隆先生の指揮

私が高校の頃、

「指揮者の朝比奈先生にレッスンしてもらえることになった」

という話を聞いて、私は当然それに対する期待はあったのですが、もう半分は

「どんなおっさんなんか見極めてやるぜ」

みたいな、ちょっと生意気な感情を持っていたことも事実です。

まあ、高校生ですので、こわいもの知らずだったのですね。

私の通っていた高校は普段は弦楽器セクションとブラスバンドが別々に活動していたのですが、高校の創立祭や音楽会ではオーケストラとして合同でクラシックの曲を演奏するというスタイルをとっていました。

弦楽器のほうには時々不定期で大阪フィルハーモニー管弦楽団からヴァイオリンの先生が指導に来ていただいていたので、そもそも朝比奈先生が指揮者を務める大阪フィルハーモニー管弦楽団とは縁があったのです。

ということで、朝比奈先生が来る!ということは決まったのですが、決まってから先生自身もお忙しいということで、延期に延期を重ねてしまったので

「ほんまに来るんかいな、もう来んでええで・・・」

みたいな雰囲気が、私と数人の親しい友人の間に広がっていったのでした。

だんだん緊張感も薄れてそのうち先生に「朝ポン」とか勝手にあだ名をつけて呼び捨てにするという始末(笑)

しかし、そうやっているうちに実際に来られることが決まったのでした。

当日講堂で待っていると、お迎えの役の拙攻?から

「路線バスでやってきたらしいで!」

との一報が。

てっきり高級車で来るものと思い込んでいた私としては、元々シラケ気味だったのに加えてなんとなくガッカリしたことを覚えています。

そして、実際に入って講堂に入って来られたとき、その時でも結構ご老体だっとは記憶していますが、現れたのは普段写真で見ている通りの気難しそうな爺さん・・・。

朝ポン朝比奈先生のCDジャケット
ほんとに素でこんな感じの人だった・・・

※リンクを押すとアマゾンの該当ページに移動します

スタスタと何も言わずに入ってきて・・・

「とりあえず、音を聞いてみないと何も始まらん。まずは演奏から」

といきなり挨拶もなしに指揮台に立ったのでした。

もう生意気盛りの自分としてはその時点でイラッとして

「へっ、ちょっと偉いか知らんが、そもそも随分遅れて来た上に何様のつもりじゃ!ボケェ

みたいな気持ちになったのを覚えています。ところが腕を振り上げた瞬間・・・

体を根こそぎ持っていかれる

「えっ?」

気がついたら体が動いていたのです。

考える間もなく、勝手に体が吸い込まれるように動いたという感じでした。

音楽で合奏をするときは曲の頭の部分は難しいところと言われています。

それまでの流れがないので、合わせるのが難しいのです。

ですので、練習ではリーダーが拍子を声に出しながら練習します。

その時に体の動きも入れて、本番では声に出さなくても(バンドなどではライブでも拍子を声に出したりしますが)体の動きだけで合うようにしていくのです。

もちろんこういうのはアマチュアのレベルで、プロならそういう基本的なことはできる人がプロなので、上手な人なら初めて会った人同士でもささっとできてしまうものです。

サッカーの代表選手みたいなものですね。

しかし、私の場合高校の部活レベルで、しかも私は高校まで本格的な音楽の経験はゼロですから、そのように具体的な音楽の能力が素人レベルの人間が、最も難しい曲の入りの部分で

「合わされてしまう」

という経験は結構衝撃的でした。

兎にも角にも私は

「プロの指揮者っちゅうもんはすごいもんやな・・・」

と思った記憶があります。

さて、私のこの経験はいったい何だったのでしょうか?

何か背景に深い理由があるのでしょうか?

それを知る機会は10数年ほど後に訪れました。

単純な動きの問題だけではなく、意識の問題

結論からいうとこれは「呼吸意識」といって、息を吸う・吐くという呼吸現象から生じる意識の問題だったのです。

高岡先生の総合呼吸法のメソッドでいうと【モーション】にあたる部分が近いでしょう。

詳しくは高岡先生の書籍『呼吸五輪書』を読んでいただくとわかるのですが、息を吸ったり吐いたりすることでその動作が身体意識化して、それが対象にも伝わるという現象です。

音楽に限らずチームプレイでは「呼吸を合わせる」とか「息を合わせる」などという表現は普通に使いますよね。

この言葉は息を吸ったり吐いたりするタイミングが合ってくると相手の意思がわかりやすくなるという現象を表現したものですが、音楽やダンスならまだしも、スポーツでは実際に呼吸のタイミングが合うわけではないので、「息を合わせる」という言葉があるということは、呼吸という現象をベースにして呼吸を超えた意識が通じ合うようになるということを、少なくとも日本語の世界ではわかっていたということになります。

しかし現実はそれよりさらに深く、こちらが特に合わせようと思わなくても呼吸意識の空間が広がることによって、相手の行動を察知したり、相手をコントロールすることも可能なのだという話なのですね。

にわかには信じがたいような話かもしれませんが、経営者等、人前で話をする機会の多い業種では、優秀な人間は人前で話をする時、程度の差はあれ自然にこのような意識状態になっていると考えられます。

そしてある程度共通の目的があって、しかも指揮者など人をコントロールするという役目が与えられている存在ほど、その威力は強く働くことになるのでしょう。

私の話で言うと、高校生だった私は朝比奈先生の呼吸意識に潜在意識で同調してしまって、動きを合わされてしまったということだったと考えられます。

その時音楽初心者の私は指揮者の仕事がどういうものかを何となく知ったのでした。

カラヤンは目を瞑る

私がクラシック音楽を聴き始めた頃、クラシック音楽の世界は2人の指揮者が人気を二分しているような状況でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤンとレナード・バーンスタインです。

特にカラヤンの名前はクラシックファンでなくても私と同程度以上の年齢の方なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

カラヤンに関しては当時ファンの間でよく言われていたことがあります。

それはカラヤンは指揮中に目を閉じるということです。

カラヤンの有名なブラームスの交響曲1番の演奏 全曲ほとんど目を開けずに指揮をしている

私も当時は

「目を瞑って指揮ができるんかいな?」

と思っていました。

そして当時の映像を見ると、なんと演奏する方も指揮者を見ていません。

これに対しては

「演奏する方もプロだから指揮者を見なくても合わせられるんだよね」

という解釈も成り立ちますね。

ただそれでは

「何のために指揮者がいるんだ」

という疑問は残りますね・・・。

もちろん本番までに曲を作る、と言う仕事は指揮者のものです。しかし実際に小規模ではありますが、指揮者を置かないオーケストラも存在するのですから、やっぱり本番で目を瞑っている指揮者が何をしているのか?と言う疑問はあってもいいと思います。

これは余談ですが、カラヤンは晩年に自分が指揮者を務めていたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とは仲が悪くなってしまったので、団員の方は見ていないどころか本当に指揮者を無視していたかもしれません(笑)

さて、その答えですが、結局のところ指揮者の仕事とは曲を解釈することと、楽団を訓練し統率することに他なりません。

曲の解釈や楽団を訓練することとなると音楽を本格的に勉強していない私は専門外ですが、楽団を統率することになると、曲の解釈とは全く別の能力が必要になると思われ、特にこの部分に関しては呼吸意識の運用がかなりの部分に関与しているということは間違いありません。

しかし「統率」という言葉を使いましたが、音楽における「統率」は、する側とされる側が軍隊のような絶対服従の関係ではないので、指揮者の能力に疑問を持たれた時点ですぐに謀反(笑)を起こされてしまいます。

ですので指揮者という職業は楽団と同等以上の音楽に対する深い理解はもちろんの事、それに加えて「カリスマ」が必要となるのですが、このカリスマというのはセンターや三丹田といった身体意識の考え方に加えて、呼吸意識で説明できる部分も相当にあるのではないかと思っています。

そうですね。結論を言うとカラヤンは目を開けていなくても身体意識と呼吸意識で楽団を統率していたのだろうと推測できます。

呼吸意識でリードされる

また、朝比奈先生の時も、私がはっきり記憶している部分では腕を振り上げた瞬間吸い込まれるように自分も体が持っていかれたので、ここで呼吸法の【モーション】でいう吸引の呼吸意識を使っていたのでは?と思っています。

ちょっと細かい話なのですけど、練習などの時には、たとえば4拍子の曲で1拍目から音を出す時には「3・4」と声に出してから合わせることをよくやりますよね。この場合声を出した人は息を吸う暇がありません。ですので「4」の部分は息を吐いているのですが、意識では4泊目は吸って、次の1拍目で意識の上でも実際の呼吸も吐いて合わせているのです。合わせる側は4拍目では吸って1拍目は吐いて入ります。ですので指揮者は実際の呼吸と呼吸意識は分離していますよね。音楽をやっている人はある程度こういうことは自然にしているものです。
しかしそれは潜在意識の中での話なので、それがどういう仕組みになっているかまではわかりません
ですので、そういったことができない人に対して教えることができないのです。
そう言う場合結局のところ「残念ながらセンスがない」という話になって終わってしまうのです。

能力の高い人は呼吸意識の作用が強いので、私のような音楽経験がなかった人でも正しいタイミングで入ってしまうということですよね。

結局のところ私は不満分子だったのが、呼吸意識によって統率されてしまったということなのでしょう(笑)

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