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股関節痛改善にゆる体操は効果的という話
皆さんこんにちは。私は整形外科でリハビリをしています。今日はその中で最近あった嬉しい出来事をご紹介させていただきます。

その方は(仮にAさんとしましょう)70代の女性ですが「臼蓋形成不全」と言う症状で、これはなんらかの原因で股関節の腸骨側のかぶりが浅くなっているという症状です。かぶりが浅いとどうしても股関節の強度が弱くなるため回りの筋肉に負担がかかりやすく、股関節回りに痛みが出やすくなります。
また当然関節自体にも正常な方より余分な負担がかかるので変形性股関節症にも進みやすいと言われています。
私はAさんのリハビリを担当させていただくことになりました。
まずは「臼蓋形成不全」という症状と、股関節周りに痛みが出やすい原因は股関節の構造が弱いために周りの筋肉がそれをフォローしようとしてこわばっている事でしょうから、こわばった筋肉をゆるめればある程度症状は改善するだろうと言う事を説明しました。
そして体操としては「股関節スリ」「腿ユッタリ」「踵クル」を指導しました。
20分間の真剣勝負
私の勤めている整形外科では体操指導の時間は20分です。その間に出来るだけ体操の効果を実感していただいて
「この体操していたらいいかも」
と思っていただけないと、ご自宅に帰られてから体操するモチベーションが上がらないので、いつの間にか体操をしなくなってしまいます。体操をしないと当然の事ながらその人の自然治癒力以上には症状は改善しないので、体操そのものに不信感を持ってしまいかねません。
そうなると結局ゆる体操そのものの評判と、それをリハビリに推薦している私の勤めているクリニックの評判にも関わってしまいます。
ただ現実は自分の力量や患者様との相性もありますからいつも100%上手く行くと言う訳ではありません。
ですからリハビリの20分はいつも真剣勝負です。

と言ってもゆる体操はそれ自体に人をゆるませる力がありますので、特別なアプローチ法があるのではなく自分は指導者としての原則に従って指導することを心がけるだけですが…。
Aさんは今まで自分の痛みは筋力が落ちているのが原因と思っていて、周りからもそう言われていたので筋トレをしていたそうですが、どうも良くならないという事でした。
冷静に考えると同じ年齢で同じような体格(筋量)でも痛みの出ない人はいますので、使い方やコンディションに原因があると考えた方が合理的ですよね。
というわけで体操を一緒にやって椅子から立ち上がってもらう時に聞いてみました。そして、
「今10分ほど座って体操をしていましたが、立ち上がる時どうでした?」
ときいてみたのですが、
「あれ?そういえばいつもより少し楽な感じがします」
とおっしゃいました。
私はプロですから、当然何気なく立ち上がる時の感じも見ています。だから立ち上がりかたを見て「ある程度効いたな」という事はわかります。
こうなるとその方は自宅で体操をしてくれます。
しばらくして2回目のリハビリの日がやってきました。
私は、「さて、どうなっているかな」と思いつつもよほどのことがない限り悪い方には行っていないだろうと希望的に見ていました。
実際にAさんに前回のリハビリ以降の事を聞いてみると、出来るだけ体操に取り組んでいるという事でした。
そして、日によっては痛みが軽減されている日も出てきたが、前回のリハビリの時のようにはうまく効果が出ない、という事もおっしゃられていました。
私は、それは普通の事で
「だれでも一人でやっていると自分の癖の方が強く出てしまって体操の効果が徐々に出なくなることはありますよ」
と言いました。
まあ、そのために私のような存在がいるのですよね。誰でも一回で効果が100%出てしまえば苦労はありません。
そんなことが可能ならどんな習い事も先生が不要になってしまいます。
という訳で、2回目のリハビリでも体操の復習をやりましたが、一目見てご自宅で体操に取り組んでいたことがわかりました。
なぜかというとぎこちなかった股関節の動きが少し滑らかになってきていたからです。

ただ、改善を焦るためかどの体操も少し無理やり動かそうとするきらいがあるので、
「無理に可動域を増やそうとする必要は今のところありません。自分が気持ちよく動かせる範囲でやって下さいね。」
と言ったところ、徐々に力みが取れてきました。
少し世間話をしながら10分ほど体操をしていると、不思議なもので自然と可動域も広がってきます。しかもご本人は話に気を取られてそのことに気づいていません(笑)
こちらから可動域が広がっていることを指摘すると、Aさんもそれに気づき少し驚いていました。
焦らずじっくりと体操に取り組んでもらう
実は体に悪いところがある人はそこを動かす体操をリハビリとしてすると、直したいという意識が強いためか動きが速くなったり、ぎこちなくなったりすることがよくあります。
そういう時は時々世間話も入れながら体操をするとその部位を意識しなくなるので自然と体操の効果が出る事もあるのです。
ただし世間話の方に夢中になりすぎないようにこちらが気を付けなければいけませんけどね。
これは教室での指導とは違うリハビリ特有のやり方です。
そのようなやり取りをしながら、リハビリを続けていく中でAさんもだんだんとリラックスして体をゆるめると自然と筋肉のコンディションも良くなり痛みが緩和され、動きも改善されるという事をわかってきたようでした。
今では
「自分は今まで体をよくしようと思って頑張って鍛えなければ、と思っていたのですがそうではなかったのですね」
と言われるようになりました。
「意識改革というか・・・、目からうろこです」
ともおっしゃいます。

さてそのAさんですが、先日しばらくぶりにリハビリに来ていただいたときに体操のチェックをすると、また少し動きが固くなっていました。自分も他人の事を言えたものではありませんが、上手な人の動きを定期的に見る事は非常に大事でしばらくリハビリの間隔が空くと自然と動きは固くなってしまいます。
年を重ねれば重ねるほどその傾向はどうしても顕著になっていきます。
これは代謝の能力が落ちるために筋疲労が改善しにくくなることと、他には脳の運動機能そのものの老化も原因と考えられます。が、こまめに体操をやって、また自分よりゆるんだ人にチェックしてもらう事でかなり改善できます。
実際Aさんも以前ほどには固まらなくなってきました。
また体操をしなかった日は調子が悪いともいわれるようになりました。ただ以前のようには痛みは感じなくなったという事です。
ここまでくるともう体操をやめてしまう事はまずありませんね。
その日は「股関節スリ」と「腿ユッタリ」、「踵クル」を(世間話抜きで)じっくりやってから最後に歩いてもらったところ、
「ああ、何かすごく楽です」
と言われました。
私は
「そうですね、今日Aさんは歩く練習は全くしていませんよね。腿ユッタリも、踵クルも太腿の動きは歩く動きそのものとは違います。でもその体操で歩く動作が楽になったという事は、結局体がゆるめば色々な動作が改善されるという事なんですよ!」
というと
「本当にそうなんですね。改めてそのことがよくわかりました。」
とおっしゃっていました。
またしばらくリハビリの間隔が空きそうなのでその日は最後に、擬態語を声に出して言う事をお家でしっかり実践していただくことを伝えました。
これを守ると忙しいときでも動きが速くなったり、固くなったりしにくいのです。
なぜかというと
「ユッタリ、ユッタリ」と言いながらせかせか太腿を動かす方が難しいでしょう(笑)
Aさんはこちらがお願いしたことはきっちりしてくれますから、次回お会いするのが楽しみです。
ゆる体操をはじめとするゆるプラクティスは医療行為ではありません。よって股関節痛に対する効果は個人差があり、この文章はあくまで私の個人的経験に基づくものです。また、この文章には医学に関連した話題も出て来ますが、そのすべてに統計的裏付けが保証されている訳でもありません。その点をご了承して頂いた上でお読みください。