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達人調整のコアな話・・・

ベテラン向け記事

皆さんこんにちは。達人調整師の中田了平です。

さて、私は今まで達人調整師として、のべ数千回は達人調整を施術してきましたが、最近お客様から良い感想をいただけるので本当に達人調整をすることが楽しくなってきました。
この達人調整ですが、このサイトでも常にお話しさせていただいている通り、非常に深い内容を含んだ身体調整の体系です。

今日はそんな達人調整について、純粋に身体運動という面からちょっとコアな私見をお話ししてみたいと思います。

人体の運動について・・・

例えば背中や腰をさする「腰背崩し」という施術があります。

この術技では使うのは自分の腕から手です(ちなみに達人調整では足を使うこともあります)。しかし、腕を使うといっても達人調整では腕を動かすために肋骨を使います。具体的には肋骨の片側を回すような運動をします(このように肋骨を使わせる身体意識を運動科学では「ベスト」といいます)。

一般的に運動といえば、軸(=センター、この場合は特に中央軸・トップセンターと言われる軸)をキープすることが大事ですが、軸をキープするといっても身体運動における軸の作用というものは、絶対的に中央軸が中心となって手足を動かすような単純なものに収まりません。

特に肋骨を動かすような運動になると、肋骨とその中の内臓を含む部分は胴体の中でも上半分の相当な質量になりますから、人体の質量の中でも結構な割合を占めています。

ですから、まっすぐの体に対して肋骨だけが動いているような単純な運動というわけではありません。

もちろん軸をキープすることは絶対に必要なのですけれども、この場合それはより潜在的なものになってきて、特にゆるんでいる身体では、自分の運動の中心としての軸と、動いている肋骨とそれ以外の部分とが質量としても分離してきて、その間に互いの運動の中心としての軸が立ってくるのです。

ただし、自分の肋骨〜腕〜手の質量と体全体の質量はかなり差がありますので、お互いの運動の中心は何もしないでいるときの自分の中心とそれほど分離しませんが、2つの質量がお互いの周りを回り合うような運動が、自分の肋骨とそれ以外の部分というパーツ同士の間で起こってくるのです。

日常の範囲での物体の運動はおおむねニュートン力学という、アイザック・ニュートンが400年前に発見した理論で説明できます。
当然のことながら身体運動にもニュートン力学が成立するので、ここで述べたような話は基本的にニュートン力学で説明できることです。

ちなみに今お話ししたことは達人調整でいうと施し手側の運動としての話です。しかし達人調整は自分だけで行うものでなく、必ず相手がいます。

では施し手・受け手という二人の間で起こる運動はどのようになってくのでしょうか?

達人調整の運動について・・・

施し手が受け手の背中や腰をさすっているとどうなるのでしょうか?

もちろん受け手がゆるんできます。ゆるんでくると何が起こるのかというと、だんだんと受け手もゆれだします。こうなってくると手を媒介として受け手も運動に参加していると言ってもよい状態になってきます。

もちろん受け手は自分では何もしていないのですが、ゆらされることである意味運動に参加しているのです。しかも先ほどのような自分の肋骨〜腕〜手の質量よりはるかに大きな質量を相手は持っています。

こうなると自立的に運動しているのは施し手なのに、全体の系として運動を捉えてみると、受け手と施し手を一体と考えたときの運動の中心軸はお互いの体の外に出てしまうこともあります。

中心軸が外に出てしまうと、施し手としては、実感としても自分が動いていながら相手に動かされてしまっているような感覚が現れます(このように相手やさらには自分が持っている道具も含んで一つの系として考え、運動の中心が自分の外部にある状態を運動の原理として捉える理論を運動科学では「他者中心構造」と言います)。

さて、ここからが達人調整として大切なところなのですが、施し手がその様な状態に入った方が必ず受け手はゆるむのです。

なぜかご説明いたします。

運動科学で中心となる「体をゆるめる運動(緩解運動)」には大きく分けて2種類あります。それは揺動緩解運動と擦動緩解運動です。前者は体をゆらしてゆるめる運動で、後者は体をさすってゆるめるという運動ですね。ゆる体操でも大きく分けるとこの二つの運動が中心になっていることは、いつもやっている人から見れば「言われてみればそうだな」というものだと思います。

さて、達人調整も当然この二つの運動が中心になってデザインされています。

達人調整は

「相手をゆるめるためには自分がゆるまないといけない」

というテーゼがありますので、もちろんゆる体操と同じように自分がゆるむようにやるわけですが、そこは相手がいるので、その運動は当然のことながら相手をさすったりゆらしたりするようにできているのです。

難しいのは相手をゆらしてあげる時で、この時に自分を中心にして相手をゆらそうと思いすぎると、自分中心だけの運動(これを先ほどの他者中心構造に対して「自者中心構造」と言います)となって、相手が50㎏の体重だとすると、その50㎏を自分の腕で動かさないといけないような運動になります。

もちろん腕だけを使うより、肋骨で腕を駆動するような使い方ができればかなり楽ですが、それでも相手は全身の重量が対象なので簡単ではありません。
どちらにしてもかなりの力が必要になるので、例えば自分の体重が100㎏とかでしたらある程度揺れてくれるのかもしれませんが、こういう無理矢理の運動だとどうなるのかというと、結局のところだんだんと自分が力んでくるのです。

施し手が力むとそれは潜在的にも顕在的にも必ず相手に伝わります。

そうすると施し手は頑張っているのに、受け手は大してゆるんでこないという困った状態になるのです。

ですからある程度受け手がゆるんできて、施し手によってゆらされることによってゆれだしたとき、受け手のゆれに対して施し手がゆらされるような状態に入れた方が、施し手も受け手もゆるむという状態になるのですね。
(なんか書いていて自分でもややこしく感じる文ですが、これで間違っていません(笑))

結果として、施し手と受け手が一つの系として一体となった運動が現れますので、施し手・受け手の軸以外に全体の系としての軸がそれぞれの軸とは別に立ってくるというわけです。

これはあらゆる対人競技(実は運動以外の一般的な「対人関係」にも)当てはまる原理で、このように複数の人間が関係する運動(精神的なものも含む)を運動科学ではマン・アンド・マン・システム(Man and Man System) と言います。

対人競技の場合では自分は楽をして、相手だけが辛いという達人調整の反対の方向性が理想なわけですが、どちらにせよマン・アンド・マン・システムでは自分だけの運動で成立するような系よりもはるかに複雑な体系になるとはいえ、身体運動に関してはニュートン力学の範囲を出ることはあり得ないわけです。

達人調整でも本質的に話は同じで、結局のところ自分だけに中心の感覚があるような運動では対人の運動としては必ず破綻してしまうのですが、その「破綻」は必ず自分へ返ってくるのですね。

いわば

「受け手と施し手が一体になって運動する」

という状態が良いわけです。

このように言うと、少し象徴的で、何か宗教的な思想のような感じがする方も、もしかしたらいるかもしれませんが、結局のところそれは力学上当たり前の話で、対人運動ではそれが自然に現れることが身体としても実は自然なわけです。

そしてこれは実感として断言できますが、そういう運動状態はゆるんでいないと現れませんし、ゆるんでいると自然に現れてくるものです。
そもそも先ほどの肋骨の運動にしても、少なくとも自分の体が剛体であるという発想では肋骨とそれ以外の身体が別々に動くという運動は起こり得ませんし、発想だけでなく実際に身体が流体(運動科学では正確には「擬似流体」)構造を体現しているゆるんだ身体でないとそういった運動は起こってきません。

ですから、何よりもまずはゆるむことが大切なのです。

合気道や太極拳のように日本や中国の武術、他の伝統芸能の伝承にもこのように”軸の多様性”を示唆する話題はたくさん出てくるのですが、これらも単にニュートン力学の中で自然に記述される現象を自分の認識として実感した先達たちが、素直な気持ちで書いただけなのでしょう。
そしてより相手の質量も含んで運動を成立させられる方が、結果的に自分の力は使わなくて良いので、結果として高級芸として捉えられるようになったのだと思います。

スポーツの世界ではハンマー投げの室伏広治選手が「ハンマーなげは天体の運動と同じ」というような事(正確な表現は忘れましたが)を言っていましたが、ハンマー投げのような重量物を扱う運動ともなると、自分の中心軸は非常に重要ですが、ハンマーと投てき者全体を一つの運動として見た時の回転軸は体の外に出ますので、ハンマーと自分の身体が回り合うような状態を天体の運動に例えたのでしょう。
しかしこれも力学的に説明できる事です。

さて、話が何やら難しい方向にいってしまいましたが、要するに効果がある術技と言うものはまずは物理法則をごくごく自然に体現できる身体でないと、あり得ないと言うことなのですね。

そして、体が固く、ゆるんでいないと、不思議なことにそういった物理法則に逆らった動きをわざわざしてしまうということなのです。

スポーツやダンスなどで怪我をしてしまうのは、つまるところ体が固くゆるんでいないので、そういった物理法則に反した動きをしてしまい、関節や筋肉に無理が祟った結果なのです。

そして精神・意志の作用も実はほとんどの場合体を固めてしまいます。

達人調整ではそれが「相手をなんとかしてあげたい」と言う善意の気持ちであっても、自分の体を固めてしまう方向に作用するのです。

高岡先生は最初からそのことをわかっていたので、達人調整のような対人を前提としている術技に関しても、まず自分がゆるむことを優先するようにしたのだと思います。

まずは自分の軸が大切

さて、今まで物体や人間の2つ以上の運動について、全体を一つの運動とみなした場合の中心軸についてお話ししてきましたが、実はそれ以前の話として、自分一人の運動としての中央軸が非常に大事ですし、軸とゆるむことについては、ゆるんでくると自然に中央軸が立ってきますし、軸が立ってくるとゆるんでくるという関係が両者の間にはあります。

ですからもっとも大事なのは自分の軸であり、それが身体意識として運動を支配するようになって、2者関係のそういった複雑な運動が起こってくるのだと思います。
要するにまず自分に良い軸があり、相手にも良い軸があれば、相手との関係の中にも別に軸が立ってくるわけですね。

現代社会に足らないのは、まずは個々に自分の軸や相手の軸があり、その軸でもって多様な関係性があるという考え方だと思います。
軸の作用は身体の運動だけでなく、精神面にも当然及びますから、まず大事なのは自分の軸で、それができれば自然と相手との関係性も育ってくるものだと思います。この関係を運動科学ではセンター・トゥ・センターといいます。

そしてそれは達人調整の中に基本的な原則としてあるものなのです。

正直いって今回書いたようなことは、普通に起こりうる事とは言え、いざ文章にするのは難しいと思いました。しかしこれはブログですから、自分の現在の認識を記録する意味でも、書いておくことが必要だと思いましたし、今後いつもはっきりとそういった運動や認識が起こってくるように(なんとかそうなろうと思うと途端に固まるのですけどね・・・)トレーニングしたいと思っています。

※本当は今回のような話をするときは垂軸と体軸という概念について説明する必要がありますが、話が複雑になりすぎるので割愛いたしました

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