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腹横筋・横隔膜筋生活のススメ
ベテラン向け記事
みなさんこんにちは。ゆる体操やっていますか?
以前、腹横筋を鍛えてお腹を絞ろうという記事を書きました。
このときは腹横筋の体型改善の面に焦点を当てた内容だったのですが、それだけではもったないと思い、もう一度記事を書くことにしました。
というのは腹横筋は非常に重要な筋肉ですが、その拮抗筋である横隔膜筋もセットにして考えないと十分とは言えないからです。
多少前回の記事と重複するところもありますが、美容だけでなくアスリートの方や健康志向の方に読んでいただけたらと思います。
腹横筋・横隔膜筋と「胴体」
腹横筋と横隔膜筋は体幹、特にお腹まわりの姿勢を安定させる重要な筋肉です。
私が言っているこの「お腹まわり」という言葉ですが、ここでは運動科学の面からもう少し正確な表現をしたいと思います。
運動科学では体幹部の中でも肋骨の部分を「肋体」その上に乗っている肩甲骨・鎖骨やその部分に付随している筋肉も含めて「肩包体」、そして骨盤の部分を「腰体」と言います。
そしてそれ以外の主に数個の背骨と腹筋群で占められている部分を「胴体」というのです。
私が「お腹まわり」と言っているのは主に「胴体」の部分です。そして一般的な「体幹トレーニング」と言われるもので鍛える部分は本来は「胴体」の部分と言えるでしょう。
そして、この「胴体」を大きく覆っているインナーマッスルが腹横筋と横隔膜筋(ただし、両方とも腰体のトレーニングにも大きく関わる筋肉です)なのです。
つまり、なんとなく体幹トレーニングと言っても、一体何が目的でどの部分をどうしたいのかを明確にしないと意味がありません。いわゆる体幹トレーニングでは肋体や腰体を鍛えて強くすることが目的ではなく、運動科学でいう「胴体」を鍛えることが最大の目的です。ですから、ここの部分を「胴体」という言葉で認識しないと、なんとなくでしか鍛えることができなくなります。
ですのでこの分類は非常に重要な概念なのです。
まずこのことをご理解ください。
内臓の健康体操
腹横筋の拮抗筋である横隔膜筋は体幹部のうち肋体と胴体を分けるように存在しています。横隔膜筋の最も重要な作用は腹腰呼吸(横隔膜とその周辺がゆるんでくることにより、吸息時にお腹だけでなく腰も膨らむような呼吸の仕方のこと)への関与ですが、その位置にあることの結果として
- 横隔膜筋が収縮し腹横筋が弛緩することにより内蔵は押し下げられ、
- 横隔膜筋が弛緩し腹横筋が収縮することにより内蔵は押し上げられる
という作用があります。(呼吸という運動から見ると上の1行目が腹式呼吸による吸息、2行目が呼息ということになります。)
つまり横隔膜と腹横筋をゆるんで大きくゆったりと使えると、内臓を柔らかくマッサージする作用があると言うことです。
言い換えると深い呼吸というものは腹横筋と横隔膜がゆるんで使えるということであり、ゆるんだ腹横筋と横隔膜筋により深い呼吸ができるということは、下腹部の内臓の健康を保つ作用があるということです。
また腹横筋・横隔膜筋を活性化させることは結果的に様々な腹部の疾患のリスクを削減させる作用があります。
私もほぼ毎日腹横筋・横隔膜筋を鍛えるための呼吸法系のトレーニングをしますが、胴体部にどこか硬いところがあると、その周囲の内臓の疲労も溜まってしまいます。そういう時に、例えば総合呼吸法の【リカバリー】というワークでそこを押してみると、結構な痛みが出ることがあります。しかし、センターを頼りに丁寧に呼吸法をすると、トレーニング中にその部分の痛みが消えてしまうことはよくあります。
正直どのような仕組でそのようなことが起こるのかはわかりませんが、膝や腰などの筋・筋膜性の疲労による痛みも、軸(=センター)を通すことにより通った瞬間に解消するということがあります。このことはゆる体操・ゆるトレ愛好者の方々は多くが体験されていることです。そしてそれと同様に姿勢による内臓の疲労も、軸(=センター)が通った瞬間、解消されるということなのだと私は考えています(もちろんどの程度解消されるか、と言う問題はあると思いますが・・・)。
また、女性の方は出産に関わる臓器が下腹部にあります。婦人科の疾患は現代では非常に問題になっていますし、この部分が硬いと若い方は出産そのものがリスクになりますので、ぜひ普段から腹横筋・横隔膜筋を柔らかく鍛えることをお勧めいたします。
女性の場合は特に、前回の記事のように
「腹横筋を鍛えるとお腹が絞れるらしいよ」
と美容目的でしていたことが、いつの間にか出産や婦人科疾患の予防に役立つなんて素晴らしいことだと思いませんか?
また、横隔膜筋と腹横筋には他にも大事な役割りがあります。
腹横筋・横隔膜筋と姿勢の保持
それは「胴体」を安定させることで強い体幹部を作り、姿勢を保持するという役割です。
逆に言うと姿勢を保持する能力を高めるには「胴体」がよく鍛えられていて、安定していることが必要です。
「胴体」を安定させるには様々な筋肉が同時に作用することが必要なのですが、腹横筋と横隔膜筋は胴体系のインナーマッスルでも面積が広いのでその役割は非常に大きいのです。
そして、具体的な鍛え方としては、クランチ(いわゆる腹筋)と言われる運動よりも立位姿勢にはほとんど変化がない、息ゆるに代表される、呼吸法による鍛え方が良いのです。
なぜそのような方法が良いのかというと、呼吸によって座位における体幹部の軸(=センター)を鍛えることができるからです。つまりセンターを頼りに、軸がぶれないように呼吸をすることにより、より軸が鍛えられ、そうすることで本当に使える体になるということですね。
そして腹横筋も横隔膜筋も、そもそも姿勢を大きく変化させない筋肉です。この二つの筋肉が主に作用し腹圧が「胴体」にかかることで強い体幹部を作ります。
強い体幹部と言うのは、イメージで言うと膨らんだ風船の圧力で内側から押し広げられているような感じです。決して外側から締め付けて固定している感じではありません。
締め付けていないので、意外にも自由に動かせることができます。
また、腹横筋と横隔膜筋で風船のように支えらえた体幹は、外側から力がかかるとちょうど板バネが元に戻るように自然に元の姿勢に戻ろうとする性質を持ちますが、まさに自分の感覚としてもそのような「感じ」があります。
これが強い体幹部の「身体感覚」です。
格定
自由に動かすことと強い体幹部ということは一見矛盾するように感じるかもしれません。
強い体幹を作るには特に「胴体」、骨格的に言うと運動科学では「自由脊椎」と言われる胸椎の12番から腰椎の3番までを安定させる必要があります。
ただし強いといっても何かあった時に動けないようでは意味がありません。
普通「強化する」というとすぐにその周囲を固めてしまいたくなるものです。
しかしそれではいわゆる使える体とは言えません。
実は世の中の「体幹トレーニング」と言われるもののほとんどは、この点を踏まえていません。
年を取ると転倒が多くなりますが、それは全身が固まってしまって、つまづいた時にバランスが取れなくなってしまったためで、このように固まった状態を強いとは言いませんよね。
少し変な例えですが、身長に見合った筋量を持っているのに高齢者と同じように体が固まってしまった人がいるとします。
その人はやはり転倒のリスクは非常に高いと言えます。
ですので基本的に体を固めるような動作、固まってしまうような動作はNGなのです。
しかし実は普通に体幹部の筋トレをすると、体全体が固まってしまって全身のバランス感覚は悪くなってしまいます。
人間は動物なので、まず自由自在に動けるという前提のもとで、動かさないといけないときは動けて、動いてはいけない時は動いてはいけないのがベストです。
ですので動物にとって「強い」ということは、そもそも自由に動く、すなわちゆるんでいるという前提を含むものなのです。
例えば、「強い」動物の代表として熊や虎を思い出してみてください。
固い印象はないと思います。
熊や虎が獲物を仕留めるために腕を振る時は、胴体はぐにゃぐにゃしていないと思いますが、胴体が固いわけではありませんよね。
先ほど私は安定という言葉を使いましたが、安定という言葉では動的なイメージがないので、これもこの場合については実は良い言葉とは言えません。
このように、ゆるんでいるという前提で、必要に応じて体(の一部分)を動かさないようにすることを運動科学では「格定」と言います。
体幹部でも肋体や肩包体、腰体は四肢の根っこの部分として、動かせる必要があります。
逆に重心移動により生み出したパワーを手足に伝えるためには、「胴体」は動かない方が良い場合も多いので、「胴体」を「格定」することはスポーツに限らず全ての身体運動にとって必須の能力と言えるのです。
また横隔膜筋と腹横筋は軸(=センター)や下丹田といった身体意識に非常に深く関与する重要な筋肉でもあります。そういった意味でも横隔膜筋と腹横筋を鍛えることは大変に重要なことです。
これらのことは高岡先生のさまざまな書籍に繰り返し紹介されているので、をさらに専門的に詳しく知りたい方は高岡先生の書籍をぜひご覧になってください。
そしてもう一つ、腹横筋と横隔膜筋をセットで鍛えることで、腰痛の改善・予防をすることができます。
腰痛の予防
前回のブログでも申し上げましたが、人間は背骨が体の中心より後ろにあります。
地上の動物の本来の構造は四足動物、特に哺乳類に見られるように、四肢に支えられた背骨が体を吊り下げている吊り橋のようなものです。ですから背骨は背中の後ろ側にあるのです。
ここは更なる祖先である魚類と、そこから進化した四足動物で明らかに違う特徴と言えます。
しかし人間はその四足動物の状態からさらに二本足で立ち上がることを選んだので、体幹を支えるべき支持組織である背骨が体の中心にありません。
結果背骨から見ると背骨より前側の方がはるかに重量が多く存在するという状態になってしまっています。
ですので、どうしても後ろ側の背筋系の筋肉で背骨を起こしておかないと立位姿勢を維持できないのです。この構造のため、立っている時に背筋の力を抜くことは普通はできません。なので常に背筋は負担にさらされています。
だからと言って腹直筋に力を入れても腹直筋が体幹を折り曲げるという役目を持っている以上は腰や背中の負担は減るどころか、腹直筋に力を入れた分だけより腰背部が過緊張するだけです。
システム上そうなっているので、腹筋群でいうとやはり体を動かす動作に直接関係のない横隔膜筋と腹横筋を鍛えることが、背筋や腰の筋肉の負担を減らしつつ体幹を格定する鍵になると言えるのです。
しかしこの問題は実は体が固まってしまっている「レギュラー(要するに普通の人の体の使い方)の身体」で起こる問題であり、そうではない「フリーな身体」ではこの「背骨が中心より後ろにある」と言う事実は姿勢制御や運動の妨げになるどころか、そうであることがさらに高度な身体運動を可能にしているということがあります。つまり、中心になる部分には必ずしも支持組織は必要でないということです。これを運動科学では「無柱中心軸」と言います。
ということで、横隔膜筋と腹横筋の最も重要な役割である
- 呼吸に関わりさらに内蔵の健康を保つ
- 体幹部、特に「胴体」を格定させる
- 腰痛の予防、改善になる
という部分をバイオメカニクスも踏まえ説明してみました。
では腹横筋と横隔膜をどのように鍛えれば良いのかというと、何度もこのサイトでご紹介はしていますが、初めて来られた方のために改めてご紹介させていただきます。
腹横筋・横隔膜筋を鍛えるゆる体操
まずは基本の基本として、腰背部が固まっているとインナーマッスルである横隔膜筋や腹横筋はうまく機能しませんので、そこをゆるめるための「寝ゆる黄金の3点セット」が重要になります。さらに背中が固まっていると息が入りませんので、背中モゾモゾ体操もついでにやっておかれると良いと思います。これを機会に「3点セット」を「4点セット」にしちゃいましょう。
そして、さらに呼吸法の基本として吐きながら体幹部をゆるめる「息ハートロトロ体操」、さらに吸いながらもゆるめる「息スーハートロトロ」体操は重要です。
ここまでやってから、実際に呼吸を使って横隔膜筋や腹横筋を鍛える「お腹ペコポコ体操」、「お腹ペコポコペコー体操」に取り組まれると良いと思います。
この二つの体操の最大の特徴は膨らましたり凹ましたりする時に、ずっと息は吐き続けているということです。
特に膨らませるときに息を吐くということは通常とは逆の作用になりますから、特に横隔膜筋にとっては弛緩したい時に収縮させなければならなくなるのでそれが負荷となり、横隔膜筋の筋トレの効果があります。
筋トレですのでうっかりするとまわりの腰背筋や腹直筋、さらには肩や首まで力んでしまいそうになるので、その前によく表面をゆるめておくことが必要になるのですね。
さらにここでは詳しく述べませんでしたが、横隔膜を下げるトレーニングをしすぎると内臓に圧がかかりすぎて、骨盤底への負荷が増してしまいます。若い方はまだ良いですが、骨盤底筋群が弱っている方がいきなり横隔膜筋を下げるようなトレーニングをしすぎると〇〇脱といった症状が出る場合があります。
ですので骨盤底系の息ゆる、「股から息スーハートロトロ体操」や「股キュートロトロ体操」もあわせてやっておく必要がありますね。
そして、可能ならば「胸腹グードシ体操」をやっておくと、さらに上級者向けのトレーニングである「総合呼吸法」に進んだ時に無理なく取り組むことができるようになっているはずです。
ただし初めてという方は、決して無理をせず、やっていて気持ちよく感じられる体操を気持ちよく感じられる時間内でされるのが良いと思います。
トップレベルのスポーツ選手や、健康志向でも「至高の健人」を目指す方は腹横筋や横隔膜の形がはっきりと感じられるようになるのが第一歩ですね。
ちなみに私はいつも電車の中で呼吸法をやっています。内容は上にあげたゆる体操よりも総合呼吸法のメソッド中心ですが、基本はゆる体操と同じです。
呼吸法系のメソッドの良いところは少し慣れてくると見た目的にほとんどやっているように見えないことです。
ですから、周りに気にされないようにどこでもすることができます。慣れてくるとまさに腹横筋・横隔膜筋を鍛えることが生活の一部になるのです。
なので、ぜひ普段から「息ゆる」になれていただいて、さらに横隔膜筋・腹横筋が使える(私もまだまだそう言う段階ではありませんが・・・)ようになっていただきたいと思います。
おわりに
高岡先生は以前サッカー本の執筆時に、呼吸法によるインナーマッスル系のトレーニングを紹介するかどうか悩んだ、という話をされていたことがありましたが、当時の一般社会の常識ではインナーマッスルを鍛えることと呼吸法の関係が、まだ社会で理解されないという考えから、結局サッカー本には発表しなかったということです。
逆にこのことからもわかるように、本来はインナーマッスルを鍛える方法としては、実は呼吸法こそが本丸といっても過言ではありません。
特に見えないインナーマッスルを探索して覚醒させるための方法は、現実的には呼吸法から入るのが最速と私は思っています(もちろん脚のクルクル系の体操やチャップリンプリン体操などでも腸腰筋を覚醒し鍛えることができます)。実際に「総合呼吸法」では横隔膜筋を鍛えることにより、最重要のインナーマッスルである腸腰筋を覚醒させ鍛える「ヒンジ」というメソッドがあります。
現在運動総研の「総合呼吸法」の講座は申し込むことができませんが、もしご興味がおありの方は次回の募集(この記事は2022年5月に書かれました)までたっぷりと呼吸系のゆる体操に取り組んでみるのも良いのではないでしょうか?
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高度運動科学トレーニング動画サイト高度運動科学トレーニング動画サイト運動総研動画サイトへのリンクです。自宅で高岡英夫先生から高度運動科学トレーニングを学ぶことができます。動画で高岡先生から学ぶ!
また、今は運動科学の理論を取り入れた漫画「フットボールネーション」でも呼吸法の重要性は紹介されていますし、高岡先生ご自身も著書である「呼吸五輪書」他でその重要性を発表されていますから、私は呼吸法こそがインナーマッスルを鍛える中心的な方法であると言う認識が定着しても良い時期なのでは思っています。
そしてこの文章が、呼吸や体幹トレーニングに関しての正しい認識をもっていただくための助けになることを切に願っています。
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