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リハビリに来られた患者様が以前通われていた方の奥様だった件
先日からリハビリに来られた70代の女性の方は腰と膝の痛みがあると言うことで、いつものように寝ゆる黄金の3点セットと踵クルクル体操と太腿ユッタリ開閉体操をご指導しました。
終わりぎわにその方がふと
「主人が『リハビリに行くなら中田さんがいいぞ。自分も以前世話になったから』と言われて来たんです」
とおっしゃるのです。
その女性のご主人様がどなただったか、にわかには思い出せませんでしたが、なんとなく記憶はあったのですね。
しかし、カルテの内容までは思い出せない。私は
「すみません、ぼんやりと記憶はあるのですが・・・」
と言うとその方は
「もう何年も前の事ですから。狭窄症でお世話になったのですがお陰様でいまは元気にゴルフにいっていますよ」
と言われます。
ああ、それはよかったですねー、などとやり取りをしたあと、苗字でカルテを検索してみたところ、その方のカルテがすぐに見つかりました。
もうコロナ前で4〜5年は経ったでしょうか。カルテを見た瞬間、当時ものすごく気になっていた方だったということがわかりました。
なぜかというと、自分がリハビリをして良くなったから来なくなった人、では無かったからです。
その方は確かに腰部脊柱管狭窄症で、ある程度の時間歩くと足がだるくなり、座って休憩しないとそれ以上歩けない、という間欠破行という狭窄症に特徴的な症状をお持ちの方でした。
私はリハビリでは最初の頃はゆる体操を、体操が習慣化してある程度の期間経ってからは達人調整をメインに行っていました。
調整を受けた直後は楽になると言われるのですが、1週間は持たず、結果的に毎週来られている、と言う状態なのです。
それがある時問診していると
「一息に歩ける時間が急に短くなりが5分ほどになって来た」
とおっしゃるのです。私は
「これはまずい」
と思って予約を早めて診察を受けることをお薦めしました。
狭窄症は症状が進行して間欠破行の間隔が短くなると、下肢に麻痺症状が出る場合があるからです。
麻痺症状が出ると、その後に手術で圧迫されている神経の周囲を広げても麻痺が残ってしまう場合もあります。ですから手術するタイミングが大事になります。
そもそもいくらゆる体操や達人調整で身体がある程度ゆるんでも、神経の圧迫まではとれるわけではありません。狭窄症の主な原因である骨の変形や靱帯の肥厚は、基本的に不可逆性のもので元にもどるものではないのです。
ゆる体操と達人調整は狭窄症でも疲労などによに一時的に症状が強くている程度なら良くなる可能性がありますが、神経の圧迫に対しては進行のリスクを減らすことが精一杯です。
こういうところでゆる体操や達人調整の力を過信しても患者様のためにならないので、ここでの正しい選択はDrの判断を仰ぐことと考えたのでした。
私は自分の範囲外の事はそちらの専門に引き継ぐのが本当のプロと思っています。
余談ですが、背骨や骨盤の歪みを治します、という広告をよく見かけますね。そういう整体院に通っていて、軽度の側湾症があるので、その症状を指摘されて来た、という人はほとんど見た事がありません。
また腰の高さが左右違っていても、実際にレントゲンを撮って骨盤が歪んでいる人は交通事故に遭われた人以外では見たことがありません。
骨格の歪みという言葉は実は非常に定義が曖昧で、本当に骨格レベルで歪んでいるのか、単に左右の使い方のアンバランスがあるだけなのか、そこを理解している人がほとんどいないのです。
ちなみに骨盤の高さ(腸骨陵の左右の高さ)のアンバランスは股関節の位置で左右差がある場合か、側湾症の場合ががほとんどで、骨盤が歪んでいるわけではありません。普通の人は仙腸関節が動かないのですから、骨盤そのものが歪んでいたら大変です。
また、背中が痛いといって整体院に来られた方がいるとして、それがたとえば圧迫骨折が原因であったら、なんらかの施術をする事は危険です。圧をかけることで一気に骨折が進んでしまう可能性があるからです。
逆に医者でも、骨格に問題が無く、身体の癖や使い方に問題があるという人がいたとして、それが身体と精神にどう言う影響を及ぼすか、ということについて真面目に考えている人はほとんどいません。
癖や使い方からくる痛みがあるのに、写真を撮って検査をして何も見つからないので気にしなくていい、シップや痛み止めを使っていればいい、という発想になってしまいます。ゆる体操や達人調整はそれらに対する大きな解決策となり得ますが、医学の世界ではほとんど知られていません。
自分にわからない事がある、と言うことと、わからない事はその道のプロに引き継ぐ、という謙虚さがお互いの業界で必要なのではないでしょうか。
私は運動科学を治療の一環として導入しているクリニックに勤めている以上、そういう教育を受けているので、自分がリハビリを担当している方をすぐにDrに引き継いだのでした。
そしてそれからその方とはお会いすることはありませんでした。
当時もその後気になってカルテを確認したのですが、予想通り脊椎の手術を専門とするDrに紹介され、その後然るべき病院で手術を受けたのであろうという事は記録からわかりました。
少し話が遠回しになりましたが、その方が今は元気でゴルフもできるようになっているという事なのですね。
残念ながら自分の技術はその時は役に立ちませんでしたが、知識は役にたったというところでしょうか。
自分のリハビリとしての仕事は少しでも相手が楽になる方法を提供する事です。
ですからゴルフができるまで回復されたという話を聞いて嬉しく思った次第です。