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脛骨直下点(=ウナ)の話

ゆる体操コラム

さて前回のコラムでは、何故、足の健康を害してしまうのかという話と、その対策についてお話ししました。
足裏の重心の位置は脛骨直下点(=ウナ)です。しかしほとんどの人間はその位置で立てておらず、何故重心の位置がずれてしまうのか、という理由は話が膨大になりすぎてできませんでした。

足裏の正しい重心の位置
静止立位での足裏の重心の位置。内側の中側なので「ウナ」と言う


今回も全てを説明できるわけではありませんが、足から身体全体の構造上の問題、そしてそれを制御する脳の問題、さらには社会全体の問題としてお話し出来ればと思います。
前回のコラムをお読みでない方はそちらを読んでからこちらを読まれるとより理解が深まると思います。

関節の構造(ハードウェア)上の理由

最初に身体の構造上の理由からお話ししましょう。
前回は足の構造の話をしましたので、そこから切り込んでみたいと思います。
まず前回に続いて足の骨格を側面から見て見ましょう。

足骨格図内側
足の骨格図

前回は足底のアーチに注目しましたが、今回は足関節、特に脛骨と距骨の関節に注目してみたいと思います。

下肢の骨格図
下肢の骨格図

まず大前提として、脛ふくらはぎには2本の骨、脛骨と腓骨がありますが、骨格図を見ていただければお分かりのように、膝関節で太ももの骨である大腿骨に繋がっているのは脛骨です。

ですから体重を支える骨は脛骨であって、腓骨は足関節の動きをサポートする役割を持っていると思ってください。

もう一度足関節を見てください。下側にある距骨は横から見ると上に凸のアーチ型で滑車状とも言える構造をしていることがわかります。

足関節内側脛骨腓骨関節
距骨は上に凸の滑車状の構造をしている

何故上に凸なのかと考えてみると、やはりアーチの頂点に荷重がかかる構造が縦に強いからだと思われます。卵が縦に潰れないのと同じ理由ですね。

しかしこの構造から考えると、普通に立っている場合の距骨に対する脛骨の安定する位置は距骨のアーチの頂点一点しかありません。ただし安定と言ってもそれはアーチの頂点のみで、そこから少しでもずれるとモーメントが発生して、距骨に対して脛骨が前後どちらかに回転してしまうような構造をしています。

このように足関節は縦に非常に強い構造なのですが、実は根本的に前後に不安定なのです。

さらに加えて言うと、実は関節面はスケート靴の氷面とエッジの間より摩擦が少ないのです(※1)。ですから脛骨と距骨の間はツルツルで、しかも上に凸の滑車状の構造から考えても、姿勢を維持する事自体がそもそも困難といってよいでしょう。

まず足関節がこのような構造をしていること自体が、重心の位置を脛骨直下点に定位することの難しさを生んでいるのです。

脳のプログラム(ソフトウェア)上の理由

さて次はそのような構造を持っている身体というものをコントロールするソフト、脳の問題です。
静止立位という姿勢で、もし人体をコントロールするプログラムを考えるとすれば、方法は二つです。
いま話題にしている足関節においては、一つはふくらはぎや脛の筋肉でガッチリ固定してしまう方法、もう一つはサーカスの玉乗りの芸の様に永遠に距骨の頂点に乗り続けるという方法です。
運動科学では前者の方法をスティフフルクラム、後者をフリーフルクラムと言います。

もし足関節のようなメカを作ってAIのプログラムでコントロールするとしたら、CPUの負荷が少ないのは前者の方法でしょう。
人間の場合は、姿勢を制御しているのは脳ですから、やはり脳も自然と負荷(疲労)の少ない方を選んでいきます。

具体的には機械の場合は関節にあたる部分を動かさない時はガッチリ固定しておく、というのが良いのでしょう。
人間の場合一番簡単な方法は前へ重心をずらしておいて、前に倒れてしまいそうな状態で逆に押し返すように踏ん張って固定する方法が筋出力が一定するので簡単です。
人間は前に眼がついていて前に進むように出来ていますから、後ろに重心をずらすよりその方がコントロールしやすいのです。

という事で、人間は足関節の不安定な構造に脳の処理が耐えられず、立位姿勢を安定させるために次第に重心の位置をずして固定させ、さらに老化による代謝の低下によって身体が固まる事によって、さらに重心の感知能力が低下して重心の位置が狂うという連鎖を繰り返していくのです。

この「脳の処理が耐えられず」という部分は運動科学のメソッド「フルクラムシフト」のトレーニングを経験したことのある人にはよくお分かりかと思います。
ひたすら重心落下点と支持線を追いかけていくあのトレーニングは脳疲労が激しいことでも知られていますよね。

外部リンク

これが人間の重心の位置が狂っていく脳のプログラム面からのメカニズムです。

実は全身が不安定な構造をしている

実はこの様な不安定な構造は足関節だけでなく股関節にも見られます。
股関節はさらにシビアで、足関節を構成する距骨は横から見ると上に凸のアーチ状ですが、上から見ると方形状をしているので横方向にはさほど動きません。
しかし股関節は球状の大腿骨の上に腸骨がはまるような構造をしているので前後左右方向にツルツルにずれてしまいます。もちろん足関節も股関節も、ずれないように靭帯で繋がってはいるのですが、その遊びの範囲でズルズルツルツルとずれ合うような構造をそもそもしているのです。

股関節の構造
股関節は足関節以上に「玉乗り」と言える構造をしている

ですから、人間が静止立位を維持するというのは実は大変難しいことなのだ、ということがこの二つの関節の構造からもわかります。

どうして不安定な構造をしているのか?

では何故わざわざその様な不安定な構造をしているのかという疑問が生まれてきます。

一つは先ほど説明したように、縦方向に強くするために上に凸のアーチ状または球状をしているということがありますが、実はもう一つ、人間の移動と、さらにはそれを支えるフリーフルクラムという根本的な脳のプログラムに起因する理由があります。
もう一度足関節に戻って考えてみましょう。
私は足関節の写真を見るたびに本当に感動するのですが、実はこのツルツルの滑車に乗っている構造は、いつでもこの一点から脛骨が滑り落ちる準備が出来ていることで動き出しが楽にできるための仕組み、ということなのですね。

足関節の構造
脛骨は滑車状の距骨に対して前後に滑る構造をしている

運動科学の理論で言うと、より鮮やかなフルクラムシフト(運動科学の用語でフリーフルクラムを前提とした重心移動の方法の事)が容易に発生するような構造であり、この構造が潜在意識に与える影響を簡単な言葉で説明すると、本来の足関節はもういつでも動きたがっていてしようがないという状態である、と言うことが出るでしょう。
これがもし反対で足関節が下に凸でそこに脛骨がはまるような構造をしていると、まず距骨が体重を支えきれませんし、位置エネルギーが安定してしまって、動き出しにより力が必要ということになってしまいます。

要するに動き出しに力が要らないように、人体のような大きく重い物体の一番土台になっているところが、この様に小さく不安定な構造になっているのです。
言い換えると足関節は、本来それだけでもう動き出したくてしようがないという関節なのです。
さらに、不安定な構造は動いている方が安定します。それは一輪車や自転車で足を着けずに静止しているよりも動いている方が安定するのと同じことです。

ですから、足関節は常に運動している方が物理的に制御が楽なのです。

しかし、ここまで述べてきたことは実は足関節だけでなく全身の関節に当てはまることです。
関節は移動や姿勢の変形を容易にするために基本的に安定するようには出来ていません。
膝関節も股関節も、背骨の各関節も、肋骨ですらズルズルずれるような動きが出来てはじめてその能力を十分に発揮するように、そもそも出来ているのです。

この点をもう少し突っ込んでお話ししてみたいと思います。

例えば背骨は重心の位置より少し後ろ側にあります。

体幹部を支持するべき、最も頑丈な構造であるはずの背骨が重心線より少し後ろにあるという事も冷静に考えたら不思議な事です。

例えば高い塔を設計するとして、あえて支持する柱を重心線よりも後ろに設計する建築家はいないと思います。東京スカイツリーのような構造物が地面と接地する接点を、わざわざ中心からずらして設計するということは無いでしょう。
この構造から考えても、背骨は身体を支持するための重要な構造ではありますが、中心では無いことがわかります。
これは人体が静的な構造物だと考えると、なぜそのような構造になっているのかは永遠に理解できません。どうみても前後方向から見ると体の真ん中からは外れているのに、背骨が身体を支持する中心だとなんとなく考えている学者やトレーナーは多いと思います。
しかしこれは人間が静的な構造物ではなく、動的な運動体だと考えると何故この位置にあるのかがしっくりきます。

つまり背骨が重心線から少しずれていることにより、背骨を中心にして運動を起こすと、その瞬間モーメントが発生し、身体が前に進みやすいように出来ているのです。

このように人間の身体はその構造自体が移動運動を前提とした仕組みになっているのです。しかもそれが容易にできるように各パーツはずれ合うような構造になっているのです。

このツルツル・ズルズルの構造があるために、静止立位の状態から瞬時に身体を変形させて動き出すことができますし、さらには人間が縦に長い骨格をしていることも、位置エネルギーを利用できることで、他の動物よりも動き出しの速さにおいて大変有利になります。

しかし人類は、直立二足歩行という能力を手に入れた為に逆に重心の制御が四足動物より難しくなってしまったため、その制御があまりにも高度すぎて脳が疲労してしまい、姿勢の制御というソフトの面で、本来の能力を十分に使えなくなってしまったという事なのでしょう。

例えば現在の二足歩行ロボットの能力は、高所から宙返りしながら飛び降りてもピタッと着地できるような能力を備えるまでになりましたが、関節の数や構造は人間の様な柔構造とは言えません。そもそも二足歩行ロボットには背骨がありません。

ボストン・ダイナミクス社の「アトラス」。大変高性能な二足歩行ロボットだが、ベースとなる発想は脊椎動物のそれでは無い

もし人間と同じようなシステムを備えたロボットを制御しようと思ったらいったいどのぐらいの能力のCPUが必要になるのでしょうか?
各椎体がツルツルでズルズルずれ合う様なフローティングする背骨(電磁石で制御するのでしょうか⁉︎)を持ったロボットを動かすためのCPUの負荷はおそらく大変なものでしょう。

それほど人体を本来の機能通りコントロールすることは大変な事なのだ、と考えられます。
ですから現代人は脳がオーバーヒートする事を潜在的に嫌って、身体がどんどん固まっていっていると考えられます。

とは言ってもそれは個人の問題とも言えないのです。実は社会全体が身体を使わないように発展してきた、というのも大きな障害となっています。

社会の構造上の理由

人間は、出来るだけ効率よく活動ができるように外部に働きかけ、文明を発展させてきた、という歴史があります。
例えば道路を作る、という事もそもそもの理由は人や荷物の往来が効率よくできるようにすることです。
さらに台車を作る、馬車を作る、そして車を作って、というふうに、物や人の移動がどんどん楽になってきました。
しかし、それはいつしか身体がゆるむ方向でなく、身体が固まる方への発展となっていきます。

動物のように自然のままの地形を高速で移動する、という行為はゆるんでいないと出来ません。人類最速のウサイン・ボルトでも凸凹の岩場を時速40キロ以上で走ることは不可能でしょう。

現在パリでオリンピックが開かれていますが、そもそも人間のスポーツの記録というものはその競技にとって記録の出やすい環境をわざわざ作って出されたものです。
身体運動において、日本や大陸で発展した武術という分野が過去に最高のレベルに発展したのは、スポーツと違い何をやってもよい、という環境の中で、まさに生死を争って技術を競ってきた賜物と言えるでしょう。

しかし現代に至って人類は、一般の人々は歩くということをほとんどしなくても生きていけるほどの環境を作り出しました。
それは障害を負って生まれてきても長寿を全う出来る社会になったという良い面がもちろんあるのですが、今の状況では高度なメカニズムで出来上がっている人間の身体を使い尽くす、などほぼ不可能な状況です。
環境が高度な身体操作を必要としていないと、脳も鍛えられませんから、フリーな重心制御の能力など開発されるはずがありません。
それだけではありません。先進国の人間は文明の発展により生存競争からほぼ解放されているような状況ですが、その分やらなければいけない(余計な)事が多すぎます。
ネットで動画をなんとなくダラダラ見るという生活習慣は(私ももちろんやりますが!)、それがどんなに良い内容でも自分の身体は固まっていきます。ですから、その間は身体は少しも休まっていません。身体が休まっていない状況は、どんなに楽しく感じられても実は脳もあまり休まっていません。

私は現代社会の状況を否定・悲観しているわけではありませんが、このように便利で情報過多の環境が、人間の高度な能力を使わないようにしているのです。

とはいっても、ほとんどの人が失ってしまった、本来人間が持っている高精細な重心感知の能力は運動科学のトレーニングで取り戻すことが出来るようになりました。
そうして身体がゆるんでいる人の数が増えてくると、自然と社会全体で重心感知に関する正しい認識を共有できるようになるので、いつの間にかそれが当たり前の事となり、社会のあり方全体がそれを生かす方向に変わってくるでしょう。

その点について少し例を出してお話ししましょう。

柔構造を作り出す”身体”

例えば、建築物の柔構造と剛構造(※2)の話ですが、1900年代前半から柔構造と剛構造のどちらが良いか、と言う議論はなされてきました。
柔構造と剛構造は運動科学の言葉で言うと、まさしくフリーフルクラムとスティフフルクラムの事です。日本は地震が多い国ですから、関東大震災以降大地震のたびに柔構造と剛構造の比較がされてきた歴史があります。
現在の建築物は適材適所で両方の長所を活かした構造をしているようですが、基本的に塔のような高層の建築物は柔構造が採用されています。

法隆寺五重塔
法隆寺五重塔

日本には法隆寺の五重塔のように1000年以上倒壊せずに残っている建築物がありますが、これは五重塔の各パーツがずれ合うような柔構造をしているからですが、なぜニュートン力学のような理論がない時代にどうしてそのような建築物を作る事が出来たのでしょうか?
これはあくまで仮説の域を出ませんが、私は結局のところ地震の多い日本という国で、当時暮らしていた人々の身体そのものが柔構造だったから、と考えています。
私は電車に乗っている時は地芯とセンターを意識して、電車の揺れに対して自分の身体が揺れを吸収できるような状態をキープするような「遊び」を毎回やります。人間の身体はツルツルのズルズルですから、とにかく全身の関節がゆらゆらして、どうにか姿勢を保っている、というような感じにしておくと、どの方向から振動が来ても地芯とセンターをキープするようにしていれば、自然と吸収できるようになっているのです。


このように柔構造の身体は振動を吸収・減衰する事ができますから、そういう身体を持っている人間なら、根本的に柔構造の発想しかできません。当然作る建築物も柔構造になると私は考えています。
人間は本来柔構造です。赤ちゃんはみんなゆらゆら立っています。しかし次第に様々な理由で身体が固まっていきます。成長するにつれ剛構造になってしまった人間はフリーな柔構造というものを想像できなくなりますし(実際20代の私は今の自分の身体のあり方というものを全く想像できませんでした)、知識として聞いたとしてもそれが良いものだという気づきが得られず、ふうん、そうなのか、と言う感じでスルーしてしまいます。
ですが、現代のような建築理論がない時代から、五重塔は柔構造で作られていたのです。寄って立つ知識、理論がないのにそういうことが出来てしまうというのは、それはもう設計者をはじめとした職人集団が当然のこととして柔構造をしていたと推察できます。
おそらく法隆寺の五重塔を作った飛鳥時代の職人集団は大変にフリーな身体をしていて、当然のこととして静止立位の状態では重心の位置が脛骨直下点(=ウナ)に定位していたに違いありません。
このように社会にフリーフルクラムの人間が増えて一定以上になると、社会のシステム全体が自然とフリーな身体を生かすような仕組みに変わっていくと運動科学では考えているのです。

皆がウナポジションで立てる社会へ

運動科学はそもそも超絶的にフリーな身体の人間(創始者の高岡英夫)が、フリーフルクラムとスティフフルクラムという二大構造を発見して、さらにフリーフルクラムと軸(=センター)を脳も含めた身体運動の2大原理として作り出された理論体系です。
重心がウナポジションにキープされるにはフリーな身体と軸(=センター)が必要不可欠です。
これが根本にない理論は一見良さそうに見えても、どこか辻褄が合わないところが出てきます。そのような理論は結果的にウナが足裏の重心落下点であるという結論に至りません。
また、運動科学から理論を拝借したとしても、他の部分で必ず矛盾が生まれてしまいます。

立位の幼児
赤ちゃんは誰に教わらなくてもウナに乗れている

いくら頭で色々考えても最終的に自分がある程度フリーな身体を持っていないと、結局はその身体理論はどこかで破綻するか、不十分なものになってしまいます。
例えば現在世の中で売られている靴や靴のインソールはほとんどがウナに乗りやすいような構造をしていませんが、それは設計した人物が脛骨直下点が静止立位での足裏の中心だという身体を持っていないからなのです。
このような商品を使っていると脛骨直下点に乗るということが出来るはずもなく、格別の知識がないと、身体は次第にスティフな状態になっていきます
もし五重塔を作った棟梁が現代に現れて靴職人になったら、自然とウナに乗れる靴を作った事でしょう。
しかしそれは外部から矯正するような、現代の発想とは違ったものになると私は思います。

このフリーか否か、軸(=センター)がどうなのか、という原則に立ってみると、借り物や紛い物の理論が何故間違っているか、という事はすぐにわかってしまいます。

このように現実は矛盾だらけの理論が跋扈している状況ですが、そのような間違った知識も関連して、どうしても様々な理由で重心の位置はずれてしまい、それによって様々な障害を抱え込むことになってしまいます。
私は整形外科でリハビリをしていますが、そのような例に当たることはほぼ毎日です。
自分でなんとかしようとして、ネットの情報を探してやってみたところ、余計に酷くなったという患者さんはたくさんおられます。

こういう点を考えても、重心の位置に関してはまずは正しい重心の位置を知ること、そして正しい重心の位置を取り戻す方法を知る事が大事です。

しかしいきなり本格的なトレーニングをすると、脳と身体がびっくりして激しい疲労を起こしてしまうの場合もあるので、まずは自分に無理のない範囲で身体をゆるめることに取り組んでみられたら良いのだと私は思っています。
そうすることで少しずつ正しい考え方が広まり、誰もが潜在的に脛骨直下点のポジションを取れるようになってくれば、個人の健康も維持できますし、社会全体も自然と良いものになっていくと思います。

さて、現代はスティフフルクラムの頂点(最下点?)の社会と言えるかもしれません。しかし物事は頂点を迎える少し前に巻き戻しが始まりますから、21世紀少し前からフリーフルクラムへの巻き戻しも始まっています。それが証拠に、運動科学の思想・理論は直接的にも間接的にも日本のスポーツ界を強国に押し上げてきました。

しかし私が整形外科でリハビリをしていると、一般の方にはまだその考え方が十分に行き届いているとは思えません。

重心の位置の件ではありませんが、数年前に世の中で開脚ストレッチが流行った時は内転筋や股関節を痛めた方がたくさん来られましたし、骨粗鬆症には踵落とし運動が良いと喧伝されたときは踵や腰を痛めた方がたくさん来られました。そもそも特殊なスポーツをしていない限りは過度な開脚など必要ありませんし、踵落とし運動に至っては人間の骨粗鬆症には効果が無いことが後で実験で確かめられたそうです。
このようにテレビやネットの情報はほとんどが役に立たないもので、ほんの僅かの正しい情報に辿り着くことは個人の能力ではかなり困難といえます。
ちなみに本格的な重心のコントロールは難しいので、そういった難しいトレーニングはちょっと・・・、という方は難しいやり方や詳しい理論を知る必要はありません。人間の重心落下点は脛骨直下点だ、という事実とゆる体操を含む簡単な方法を知っていれば十分です。
高度運動科学のトレーニング大好きだという方がトレーニングを積んで脛骨直下点で立てるようになり、そのような人が増えると、社会の認識が次第にかわっていくので、それが相乗作用になって自然と脛骨直下点で立てる人が増えると私は思っています。

ですから私は今後も重心の位置だけでなく、腿裏に対しての基本的な考え方や体幹の使い方など、それらが正しく伝わり、すべての人がせめて知識としては足裏の重心の位置はウナであり、歩くときに使うべきは腿裏であり、さらには背骨が運動に置いて果たす大きな役割などが、当たり前に一般の方に届くように、微力ながら現場やこのサイトで発信し続けたいと思っています。

なお、本記事で書かれていることのさらに詳しい学術的な内容については高岡先生の著書「究極の身体」で述べられていますので、ご興味のある方は参考にしてください。
また、本記事の内容についてはあくまで私が今までトレーニングをして来た感想であって、これが絶対的に正しいという保証をするものではありませんので、参考程度に考えていただけたらと思います。

(※1)氷上をスケート靴で滑っている時の摩擦係数0.03に対して、関節の摩擦係数は0.002〜0.02程度と言われています
(※2)柔構造という言葉の定義には若干のばらつきがありますが、ここではリンク先での意味で使用しています。

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