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リハビリちょこっと話⑨ 腕プラーンで思い出す子供の頃の記憶
私は整形外科でリハビリをしています。
リハビリといっても怪我の回復期のリハビリをすることは少なく、やっている事はゆる体操や達人調整を利用した身体のお手入れの仕方、といった感じでしょうか。
さて、今回の患者さんは肩の痛みを訴えている50代の男性の方で、腕を動かすと痛い、という典型的な40肩の症状ですが、痛みの部位を診ると首の神経が圧迫されている可能性もあるようです。痛みが神経痛であるならゆる体操の効果は出にくいですが、肩を動かすと痛い、という症状は肩回りの筋肉の拘縮によってできる症状ですから、長年の姿勢の悪さが影響して、僧帽筋や三角巾が拘縮した結果、首の骨が変形して神経を圧迫しつつ、同時に回旋腱板も痛んでいるのでしょう。
とりあえず肩の動きが悪いので肩回りをゆるめる調整と、ゆる体操は腕プラーン体操をやってもらいます。
しかしこれがなかなか難物で、まず腕が全くプラーンとしてこないのですね。腕プラーン体操は典型的な振り子系の体操なので、前後に動かそうとするよりもまずは腕が地球の中心に向かって垂れるという状態が大切です。
しかし僧帽筋も三角筋もガチガチに固まってしまうと腕が体幹に常に引きつけられてしまうので、そもそも腕が垂れないのです。ですから、腕プラーン体操をやっても、自分で前後に腕を動かし続けないと腕が振れません。しかもその動作に使う筋肉は三角筋だったりするので、永遠に三角筋や僧帽筋がゆるむことはないのです。
私は達人調整で僧帽筋や背中の筋肉をゆるめながら、ゆる体操と達人調整を繰り返すことで、なんとかリハビリの時間中に「腕が垂れる」という感覚をとりもどしてもらおうとそのサイクルを何度も繰り返してみたのですが、何度目かの時、腕が少しタラーンと垂れてきたのがわかりました。
「そのままその垂れる感じがなくならない程度にそっと腕を前後に振ってみてください」
というと、その方は
「あ〜、あ〜」
と言います。人は普段自分にない何らかの身体意識がいきなり出来たとき、かならずこういう反応をします。その体性感覚を具体的に言葉で説明するという感じにはまずなりません。こういった反応は脳内では視聴覚的意識と体性感覚的意識が別の系統であることを示しています。
しかしそれを言葉で表現することは大事です。言葉で表現することで、言語野と体性感覚野がリンクし、自分で体操をした時に再現しやすくなります。この辺りの事はバランスも非常に大事ですが、とにかくリハビリのような個人指導では、私はできるだけどんな感じがするかを自分で言ってもらうようにしています。
さて、その患者さんは、
「何か、腕がぶら下がって、振れているような気がします・・・。っていうか、自分の肩って、普段からこんなに固まっていたのですね・・・。」
といいながら、時々手首プラプラ体操のような動作を途中で入れるのです。
私は手首プラプラ体操を教えた訳ではありません。しかしご本人がおそらく潜在的に前腕から手の拘縮が、腕の振り子運動を妨げているのを感じて、自然にそのような動作が自分の中から生まれてきたのでしょう。
「いま、腕をプラプラしていましたよね。これはリハビリでもよくやっている体操で、手から手首をゆるめる体操なんですよ。身体のどこかがゆるんでくると、自然に他のところもゆるめたくなるので、そういった動きが生まれてくるものなのです」
というと、その方は
「なんか、子供の頃はいつもこんな感じだったような気がします」
と言われたのでした。
子供はゆるんでいますから、腕なんか常にプランプランです。体操をしなくても常にプランプランなのです。ですから腕プラーン体操で子供の頃の身体の記憶が一時的に甦ってきたのでしょう。
100人リハビリをして100人がそういう感覚を取り戻す訳ではありませんが、こういった経験は鮮烈です。
そういう経験をした方はゆる体操を続けますから、自分もご指導の中で皆さんにそうなっていただきたいと思って自分の能力向上に努めています。