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リハビリちょこっと話⑧ さすりはすごい
私は整形外科でリハビリをしています。
リハビリといっても怪我の回復期のリハビリをすることは少なく、やっている事はゆる体操や達人調整を利用した身体のお手入れの仕方、といった感じでしょうか。
さて、今日は脳出血後の片麻痺がある患者様の話です。
その方の整形外科的な症状は足の痛みです。治療としてはインソールを作成しました。私の勤めている整形外科ではインソールを作成した日は無料で短時間のリハビリが受けられるシステムになっているのでリハビリでは正しい位置で立てるように脛骨直下点(=ウナ)の指導をしたのでした。
(当院は運動総研から許可をもらって、ゆる体操にはないウナポジションの指導をしても良いとうことになっています)
私は二回目を担当させていただいたのですが、全体の雰囲気を見ると、まず、病気や後遺症のために疲れ切っていて、「ゆるむ」という感覚をすっかりお忘れになっている印象を受けました。
こうなってしまうと、身体が固まってしまっているのでいくらウナを刺激してもウナポジションに重心がおさまるということになりません。
ですから私はまず、
「足のリハビリですけど、まずは緊張をとってもらうために太腿をさすっていきましょうか」
と提案しました。
なぜ太腿かというと、手をさするよりも脳への刺激は少ないかもしれませんが、座ったままで一番腕の負担が少なく、身体への負荷がかからない方法だからです。
さすりで最も大切なことは「気持ちよく」といいながらさする事です。まずは「気持ち良い」という感覚を思い出してもらいます。
対話も大事です。リハビリでのゆる体操の指導は相手がゆる体操に興味をもってしに来たわけではないので、まずは今何をしているのか、という事がわかっていただくことが大事です。
ですから、ただ何となくさするのではなく、「太腿が本当に気持ちよくなるように」と、何度も声かけしながらさすっていきます。
しかし、私と患者様が対話するのも大事ですが、本当に大事なことは、それを通じて患者様が自分の身体と対話できるようになる事です。ですから私は何度も声かけするのです。
さすっているうちに太腿がフワーッとして、気持ちよくなってきます。
「太腿がジワーッとあたたかくなるのが感じられますよね。それが”ゆるむ”という事です」
と説明します。
「今は太腿の前側をさすってもらいましたが、太腿の横側はどうですか?そうですね、さすっていないので、気持ちよくはないですよね」
という感じで今度は太腿の横側をさすってもらいます。すると当然の事ながら、太腿の横側も同じようにジワーッとあたたかくなってきます。
「この気持ち良い感じを知ってしまうと、どうですか?他の身体の部位がムズムズしてきませんか?どこかさすりたくなってくるところが出てきたでしょう?どこか探してください、どこですか?」
と聞くと、聞いている間からその方は無意識に左の肘をさすり出しているのです。
「そうそう、それですよ、今肘がムズムズして、さすりたくなったんでしょ?」
というと、言われてはじめて肘をさすっている自分に気付く、と言った感じです。
これは本来人間に備わっている力です。身体は常に脳に対して訴えているのです。その訴えを脳は無視しているのです。
本来は頭で考えなくても自分がゆるめたいところには手が行くものです。そういう訴えを主体意識としての”自分”は常に無視しているのです。
「そうやってどこがが気持ちよくなってくると、他のところもさすりたくなってくるので、そうやって全身をさすってあげてください」
と、自然に全身スリスリ体操へと進んでいきます。この場合、こちらは部位をリードせずに相手の気の赴くままに進んでいきます。
そうやって全身さすっていくと、質のいい温泉に入った後のような感じになっていきますよね。
そこで私はいつも聞いてみるのです。
「振り返って自分が普通に立っている時って、このような気持ちよさがありますか?」
このタイミングでこういうふうに聞くと、みなさん
「あ〜、あ〜、そうですよね、こういう感じではないですよね・・・」
という反応をされるのです。
身体がさすられて気持ちのいい状態になっていると、こういう質問がよく響くのですね。
普通に質問してもせいぜい
「そういえばいつも力んでいるかも。」
というようなしか得られないものです。
しかし、普通に立っていても気持ち良い、という事があってよいのです。全身スリスリ体操をやった後はこういうことが身体的な実感をもって感じられるようになるのです。
ここで脚スリにあたる部分をされていなかった場合は私がリードして脚まわりは丁寧にやっていただくのですが、足首クロスや足スリも入れながら股関節から足先まで十分にさすってもらった後に、もう一度脛骨直下点(=ウナ)を刺激してもらいます。
そうすると、足から足首から全身にかけてジワーッ、フワーッと気持ち良い状態の中で、刺激されたウナがキーポイントの身体意識として、全身をコントロールしてくれるようになります。
「さあ、細かいことはいっさい忘れて、全身がフワーッと開いた感じの中に、足裏のウナが感じられますよね。この感覚を大事にしてしばらくそっと立っていてください」
というと大抵の人はその人なりにウナポジションで立てるようになるのです。
片麻痺の場合やはり脳のコントロールが効かない部分はあるので、効果にも限界はあるかもしれません。
しかし誰でも苦手な事はありますし、障害があったとしてもできる範囲で身体のお手入れをする事が悪いことのはずがありませんから、私もその人に合わせていつも指導を行なっています。
これは健常者の場合でも同じですよね。
大事な事はさするという一見簡単なことでも、ちゃんと効くようにやると、素晴らしい効果が出るという事です。
そして手がある程度使えれば、身体が不自由な方でもできるという事です。
こういう情報こそが広まるべきだと思うのですが皆さんはいかがですか?